【司狼視点】.司狼は、美咲の性格を理解していた。慎重。真面目。空気を読んで、常に一歩引いている。誰かを傷つけるくらいなら、自分が少し我慢する人間。だからこそ、告白する場所は決まっていた。そのタイミングも。昼休み。いつものカフェ。周囲には同僚たち――逃げ場の少ない場所だった。◇◇◇「花邑さん」司狼が声を掛ける。美咲が振り返った。その瞬間、周囲の会話が少しだけ静かになる。何だという好奇心が漂う。「もしよかったら」司狼は笑った。岡本蒼太として。美咲が好きになる笑顔で。「友だちからでもいいので、お付き合いしてもらえませんか」沈黙。ほんの数秒。それだけだった。けれど司狼には何分にも感じられた。.「えっ?」「告白?」「すごい!」周囲が一気に騒がしくなる。美咲の同僚たちは面白がりながらも、美咲を見る。その視線は悪意ではない。むしろ祝福に近い。だからこそ、美咲は断りにくい。(悪いな)心の中だけで謝る。卑怯だとは思う。でも、他の男に先を越されるほうが嫌だった。.美咲は困ったように笑った。隣の同僚を見る。助けを求めるような視線。だが返ってきたのは。「いいじゃない」そんな答えだった。美咲の逃げ道はなくなった。「……友だちから、なら」その一言で司狼の世界は色を変えた。「ありがとうございます」たったそれだけ返す。本当は抱きしめたい。笑いたい。叫びたい。けれど、そんなことをすれば岡本蒼太ではなくなる。理性で本能を押さえ込んだ。. その日から。二人は恋人ではなく「友だち以上恋人未満」のような時間を過ごすことになる。昼休みに昼食を食べ。休日に出掛け。仕事帰りに食事をする。司狼は決して急がなかった。手を繋ぐことも。肩を抱くことも。無理にはしない。(怖がらせたくない)その気持ちは本物だった。美咲が笑う。その笑顔を見るだけで十分だった。.だが。欲は少しずつ育っていく。もっと会いたい。もっと知りたい。もっと長く一緒にいたい。美咲が休日に友人と出掛けると聞けば。(今日は会えないのか)そう思う。残業になると聞けば。(ちゃんと夕飯を食べるだろうか)そんなことまで考える。自分でも笑ってしまう。これまでの恋人たちに欠片も抱かなかった感情。これが番だ
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