港の風が、ざわついていた。 昼間の漁港は、いつもなら騒がしい。 網を引き上げる声、トラックのバック音、魚を捌く包丁の音。 だが、その日は違った。 音はあるのに、どこか芯が冷えている。 カミヤは、荷揚げの仕事をひと段落させ、汗を拭った。 銀色の微細な粒子が、陽の光の中で一瞬だけきらりと光り、すぐに肌に溶けた。「おい、新入り。今日はもう上がっていいぞ」 親方がそう声をかけてくる。 いつもより少し、早い終わりだ。「いいのか。まだ日も高いが」「こういう日はな……魚も人間も、早く家に帰った方が身のためよ」 親方は煙草に火をつけながら、港の方角を顎で示した。「さっきから、山の方がうるせぇんだよ。聞こえねぇか?」 耳を澄ます。 遠く、かすかに、爆音が重なって聞こえた。 エンジン音。 ひとつやふたつじゃない。 うねるような、多数の咆哮。 それだけじゃない。 風の匂いが変わっていた。 海の匂いの奥に、 焦げたゴムと、安いガソリンと、 それから――湿った土に染み込んだ、古い血の残り香。 朽縁トンネルの方角だ。「……面倒くせぇ音だな」 ぼそりと呟く。 そのときだった。「カミヤ!」 背後から、ドスの効いた声が飛んだ。 振り返ると、勝田がいた。 スナックのヨレたジャンパー姿のまま、息を切らせている。 あまり走るタイプじゃない男だ。 その男が汗だくで駆けてくる時点で、ただ事ではない。「逃げろ」 開口一番、それだった。「連中、まともじゃねぇ。県内から暴走族かき集めてきやがった。ざっと百人。全員
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