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All Chapters of 空に墜ちる -if-: Chapter 61 - Chapter 66

66 Chapters

7-3

「ところで、これなんだ?」 テーブルに置いてあるタブレットを指さし、若桐が問うた。「あ、これは、カミサンもオンラインで参加させようと思って……」 響野がタブレットの電源を入れる。「莫迦! 妊婦にいらん気苦労を掛けるな!」 麗子は、いきなり若桐が響野を説教している姿が映し出されて笑った。「若桐さん、お久しぶりです」「よう、麗子ちゃん。体調は大丈夫かい?」「はい。実家でゆっくりさせてもらってるので」「気分が悪くなったら、早めに退席するんだぞ」「やだ。若桐さんのほうが旦那より気遣い上手!」 うふふと麗子が笑う。「あの〜、ヒトリモンの若桐さんが、なんでそんなに分かるんです?」「自分のカミサンじゃなくても、同僚に何人も妊婦がいたからな。がさつな訓練生から、守ってやらなきゃならないんだよ」「さすが名前が〝守〟なだけありますね!」「響野……おまえ、まだそんなオヤジギャク言うような年じゃねぇだろ……」 仲居が料理を運び、麗子に角田を紹介したところで、響野が件の〝証拠写真〟を取り出す。「なんですか、これ?」「密告者から送られてきた写真だそうだ」「あ〜。こりゃあ、悪意満々な写真っすねぇ! で、こっちが真壁一佐で、こっちは……?」「全員一致で、当時、静浜で教鞭をとっていた〝藤原三佐だろう〟となった」「なるほど、なるほど」「角田くんには、出来たらこの密告者が誰かを、調べて欲しいんだが」「おおっと! それはちょっと、守秘義務に抵触しそうですね」「やっぱり、駄目か……」 ううん……と、若桐は腕組みをする。「ちょこっと、意図せず。うっかりなんかの拍子に分かっちゃったりする可能性はあるんで。話題の流れで、話が出ることもなきにしもあらずです」「え…&
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8:霧の中

 休日、市ヶ谷駅の改札を抜けたところで、若桐は目についたカフェで甘口のコーヒーを購入した。 甘党の藤原に、差し入れのためだ。 若桐がアポイントを取ると、藤原はすぐにも応じてくれた。 入口にも話を通しておいてくれたらしく、身分証を提示するとすぐにも藤原が顔を出す。「若桐さん、お久しぶりです」「よう、久しぶり。これ、みんなで食ってくれ」 差し入れのカフェの他に、浜松で買ったうなぎパイの箱を差し出すと、藤原が笑う。「相変わらずですね。ありがとうございます」「いや、わざわざ時間を割いてもらってるからな」 面談室に通されて、若桐と藤原は向かい合った。「それで、今日は?」「うん。きみのところに、なんか身上調査のようなもの、なかったかい?」「えっ、なんでご存知なんですか?」「ああ、うん。実は……」 若桐は少し言葉を濁した。「きみと、訓練生時代の真壁が、不倫していたという噂が出ていてな」「真壁?」「静浜で、俺と教鞭取ってた時に教えた、背のでかい……」「ああ! あの綺麗な顔した〝どちて坊や〟!」 藤原の返事に、若桐は思わず吹き出した。「藤原くん、きみ、年齢詐称してるのか?」「あ、ネタが古すぎました? でもあの子、授業終わりに〝どちてどちて〟って質問攻めにしてくるの、得意だったじゃないですか」「確かに……な」 若桐は苦い笑いを浮かべる。「もっとも、あんなに熱心に聞いてきた生徒、あとにも先にもいなくて。教官冥利にはつきますけどね」「そうだな」「え……でも、あの真壁と、私が、不倫?」「ああ。真壁に昇進の話が出たら、きみと不適切な付き合いがあったと密告があったらしい。もし、本当にそんな密告があったなら、市ヶ谷にきみを推した俺としては、きみの履歴に傷が付くと思ってな」「傷って言えば、離婚した時点でボロボロ
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8-2

 真壁の執務室の扉を、またしてもノックもなく開けて響野が入ってきた。「おう、メッセージ見たかっ?」「三佐、困ります!」「西條君、ありがとう。少し、休憩入れてきて」 真壁は立ち上がると、西條に席を外すように言った。 西條は、真壁の顔を見て、それからちらっと響野の顔を見て、もう一度真壁を見たところで「わかりました」と言って席を離れた。「こう頻度が高いと、本当に西條の胃に穴が空く。仕事が済んでからにしろ」「いや、若桐さんの〝かじま〟ってのが気になってなぁ」 響野はそのまま、執務室の応接セットにぼすんと腰を据えた。「それは、僕も気になった。しかし、同期に〝かじま〟なんて名のやつはいない」「なんだ、調べたのか?」「調べてはいない。同期の顔と名前は暗記している」「教官の藤原さんは覚えてないのに、同期は覚えてるのかっ!」「実務に必要になるだろ?」 きっぱりと言い切られ、響野は少し呆れ顔になった。「本当におまえは、合理主義だよ。若桐さん以外は」 響野のため息と、扉のノックはほぼ同時だった。「入れ」「堂島二佐、出頭しましたぁ!」 入ってきた顔に、響野は驚きを隠せない。「堂島? おまえ、今は横須賀勤務じゃなかったか?」「〝かじま〟の名前に心当たりがないかと思って、堂島と狩谷に連絡をしようと思ったら、ちょうどこっち来てたから寄ってもらったんだ」 一応、敬礼をしたものの、堂島もすぐに態度を崩して響野の隣に座る。 真壁と響野、それに堂島と狩谷は、訓練生時代の同期であり、班として寝起きを共にした友人だ。「同窓会にしたって、真壁から声がかかるとは思わなかったな」「同窓会じゃない」「狩谷は、今、市ヶ谷だっけ?」「広報室だ。僕が松島にいたころ、副隊長をしていた跡部一佐と一緒だと思う。だが、今は勤務中で返信はなかった。堂島、これを見てくれ」 真壁はタブレットの画面に、件の〝証拠写真〟を映し出す。
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9:悪意

 情報を共有するために、若桐と真壁、それに響野は、再び件の料亭に集まっていた。「あれ? 角田くんは?」「一応メッセージは入れておいたんだが、返信がなくてな」 若桐の答えに、真壁と響野は顔を見合わせる。「それで、狩谷とは連絡取れたのか?」「メッセージにオンライン会議の時間を送っておいたら、参加すると返信がありました」『俺は、既にインしてます』 テーブルの上のタブレットは、分割画面になっており、片方に堂島が写っていた。「お連れ様が到着されました」 仲居の声に、一同は角田が来たのだとそちらを見たが。 全く見も知らない男が立っている。「初めてお目にかかります。僕は牧瀬と申します。角田のメッセージボックスにここへの日時指定があったので……」「えっ? えっ?」 牧瀬は部屋に入るなり、サッと正座すると深々と頭を下げた。「申し訳ありません。角田は昨日付で退官しました」「はあっ?!」「ちょっと待ってくれ……。退官……?」 若桐はめまいを感じたが、真壁も響野も大差ない様子で戸惑っている。「はい。最初は佐藤三佐の後任を引き受けたんですけど、どうしても佐藤さんの補佐を続けたいと言って、追いかけていってしまいまして……」「じゃ、きみは……角田くんの後任?」「はい」「えっ? それじゃあ、今日は謝りに来たの?」「もちろん、謝罪の意味もありますが。こちらのメッセージを確認して、角田に確認を取ったところ、佐藤さんから返信があって〝必ず力を貸すように〟と……」「え〜と……、じゃあ角田くんにした話を、聞いては……?」「いません。外部の人になってしまったからって、勤務中は佐藤さんが電話に出てくれないんです」「それ…&hellip
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9-2

 角田が電撃退官してしまったことを受け、一同は後任の牧瀬に最初から事の顛末を語った。「概要はわかりました。……えっと、ちょっと中座しますね?」「どちらに?」「ボスに、電話して良い時間になったので。角田に状況も確認してみます」「ああ、よろしく」 部屋から出ていった牧瀬の背を見送ると、タブレットの向こうで堂島が溜息を吐いた。「どうした?」『いや、警務と口聞くのなんて、緊張しますよ! なんでみんな、平気なの?』「協力してくれているんだから、こちらも相応の態度を示すのは当たり前では?」「俺は緊張してたよ? でもまぁ、悪いことしてるわけじゃなし?」 真壁と響野の答えに、堂島は納得しかねる顔をする。『若桐教官は?』「緊張しまくりに決まってんだろ」 その答えに、全員が「どこが?」と言った。「あ、狩谷がログインするみたいですよ」 画面に三個目のウィンドウが現れ、狩谷の顔が映し出される。『うわ! どうした狩谷! 激ヤセしてねっ?』 堂島の発言に、響野と真壁も同意して頷いた。『いやぁ……、今の部署、結構きついんだわ』「だが、狩谷は実機に乗るより、広報担当しているほうが楽しいと言ってなかったか?」『ココくるまでは、そー思ってたんだけど。上司とソリが合わなくてなぁ』「おまえの上司って……、跡部さんじゃなかったか?」『なんだ、真壁。知ってるのか? あ、そういやあの人、ブルーにいたんだっけ? おまえ、被ってんの?』「ぴったり被ってる。跡部さんは、ずっと副隊長だった」『あの人、きつくね?』 狩谷の問いに、真壁は首を傾げる。「いや……、それほどとは……」『それ、たぶんものすごく間違った見解だと思う……』 返したのは、堂島だ。「
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9-3

「角田は、この写真は監査に郵送で送られたことと、その郵便が外部のものではなく、省内便を利用した切手のない封書であったことを調べていました」「彼、調べてたならちゃんと引き継ぎしてから退官しなよ……」 若桐のコメントに、牧瀬が申し訳なさそうな顔になる。「本当に、すみません」「いや、謝らないで。無茶な頼みをしたのも悪かったし……」『ミステリー物なら、外部の郵便を使うところじゃね?』 堂島が、勝手な意見を述べた。「封筒の出どころは、分からなかったのか?」「角田が言うには、市ヶ谷の可能性が高いってことでした。……ただ、あの人、勘働きと称して憶測で物を言うので、本当かどうかは、ちょっと調べてみないとわからないですね」『ところでさぁ、これってなんの集まりなの?』 今更、狩谷がそんなことを問う。「あ、そうか! 狩谷は中途参加だから……」『てっきり、同期のオンライン飲み会だと思ってたけど。違うの?』「全然違う。そもそも、同期のオンライン飲み会に、なんで若桐さんいると思ってんだよ?」『そういや、そうだ。……ああ、俺も響野にツッコミされるようじゃ、オシマイだぁ〜』 狩谷が、ことさら大げさに頭を抱えた。「そもそも、おまえがこんな写真を撮るから!」 響野が件の〝証拠写真〟を、画面に見えるようにぐいとカメラに向ける。『うわ! なっつかしい! 麗しの藤原教官と密会する真壁の図!』「おまえのそのノリが、今、どえらい波紋を呼んでるんだよ……」 若桐が眉間を押さえて、深い溜息を吐く。『えっ? なんです?』 狩谷はきょとんとした顔になった。「実は、真壁が将補の候補に上がったんだ。だが、そのタイミングでこの写真が〝訓練生時代に教官と不倫してた〟証拠写真として、監査に密告された」『えっ&hellip
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