正人は少し考えるように首を傾げた。「んー」短い間。それから、小さく笑う。「疲れ、滲んでる」私は眉をひそめた。「そんなに?」「そんなに」即答だった。そのくせ、理由は聞かない。何があったのかも聞かない。正人は昔からそうだった。聞けば私が面倒くさがることを知っている。だから聞かない。でも、気づいていることだけは伝える。それが、正人の距離感だった。「週末休んだんだけど」「身体は休んだんでしょ」「何その言い方」「頭は休んでなさそう」さらっと言われて、言葉に詰まる。図星だった。正人は少し笑う。勝ち誇るわけでもなく。ただ、やっぱりな、という顔だった。その顔を見て、私は小さく息を吐く。不思議だ。二、三言葉を交わしただけなのに、呼吸が少し楽になる。正人はこういう存在だった。困った時に、わざわざ助けを求めなくても隣にいる。でも、こちらが言わないことには無理に踏み込んでこない。近い。けれど、安全な距離がある。だから私は、正人といる時だけはあまり構えなくて済む。「朝ごはん食べた?」「またそれ?」「その反応だと、食べてないなと思って」「食べてない」「やっぱり」満足そうに頷く。少しだけ悔しい。でも少し可笑しい。「コンビニ行く?」「今?」「会議まで十七分ある」「細かい」「買える」「正人ってさ」「うん」「たまに私の母親みたいだよね」「やめて」正人が即答した。その顔が本気で嫌そうで、私は少し笑った。「じゃあ兄?」「それもやめて」「じゃあ何なの」「同期」「便利な言葉」「親友でもいいよ」あまりにも自然に言われて、私はそのまま頷いた。親友。そう。正人は、私の親友だった。五年前からずっと。仕事で一緒に徹夜したこともある。クライアント先で理不尽に詰められた帰り、二人でラーメンを食べたこともある。私が海外赴任前で余裕をなくしていた時も、帰国して仕事の感覚が戻らなかった時も、正人はいつも普通に隣にいた。励ますでもなく。慰めるでもなく。ただ、同じ温度で話してくれる。だから楽だった。だから、異性として考えたことはなかった。考えなくて済む関係だった。「そういえば」正人がコーヒーを持ち直す。「今週金曜、空いてる?」私は予定表へ視線を落とした。夜は空いている。でも正人
Last Updated : 2026-07-02 Read more