今回
ドレス試着の日、彼氏の入江真宙(いりえ まひろ)は一緒に来ると約束していたのに、いくら待っても姿を見せなかった。
ウェディングドレスの裾は長く、私・大崎百華(おおさき ももか)はひとり鏡の前に立って、何度も体をかがめては裾を整えた。
3度目に裾を踏んだとき、ようやく真宙からメッセージが届いた。
【梨愛がさっき帰国したんだ。まだ気候に慣れてないみたいだから、迎えに行ってくる。先に試着しといて】
次の瞬間、SNSのタイムラインが更新された。
上杉梨愛(うえすぎ りえ)が、写真を投稿していた。
片膝をついた真宙が、梨愛の細い足首をそっと包み、ヒールのストラップを留めている――そんな写真だった。
一言だけ、キャプションが添えられていた。
【やっぱりこの人、絶対に自分でかがませてくれないんだから】
投稿を開いた瞬間、真宙の「いいね」がついているのが目に入った。
空気を読んだのか、スタッフがそっと声をかけてくれた。
「大崎様、入江様は大崎様のことをとても心配していらっしゃいます。『こっそりダイエットして体を壊すといけないから、ウエストは直さないように』と、わざわざご配慮くださって」
私は笑った。
心配してくれていること自体に、嘘はない。ただ、彼が別の誰かを優先することを、その優しさはちっとも止められなかった。
うつむいて、白いドレスを見つめる。
ふと気づいてしまった。
身の丈に合っていないのは、ドレスじゃない。
きっとずっと前から――この結婚そのものだ。