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第232話

Author: クレヨンまるこ
メッセージを見た咲夜は、スマートフォンを手にしたままウォークインクローゼットに向かった。

外出に適したスポーツウェアに着替えると、そっと部屋のドアを開ける。

家の中は静まり返っていた。

詩乃も瞳も、すでに眠っているのだろう。

咲夜は足音を忍ばせながら階段を下りた。

少しでも物音を立てて、二人を起こしてしまわないように。

ガレージに着くと、一台のカスタム仕様の黒いバイクの前で立ち止まる。

ヘルメットを被り、乗り込もうとしたその時――

「こんな時間に、どこに行くんだ?」

突然聞こえた声に、咲夜の心臓が跳ねた。

慌てて顔を上げると、いつの間に来たのか、そこには千暁がいた。

咲夜のガレージは、ちょうど千暁の家と隣接している。

よく見ると、彼の髪には数枚の落ち葉が引っかかっていた。

咲夜は目を見開く。「……まさか、塀を乗り越えてきたの?」

どう見ても、自宅側のフェンスを越え、こちらの敷地に入り込んだとしか思えない。

天下の荻野家の御曹司が、深夜に隣家の塀をよじ登るなど。

そんな話が広まれば、イメージに関わるどころの騒ぎではない。

それ以上に、千暁がそんならしくな
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    「どこへ行くんだ?」千暁は咲夜の耳元に顔を寄せ、エンジン音に負けないよう声を張り上げた。こんな深夜に、本当にただのツーリングに付き合わされているとは思えない。咲夜も負けじと大声で返す。「ストレス発散!」その答えを聞いた千暁は、それ以上何も聞かなかった。ただ咲夜に身を任せ、夜の街を駆け抜けていく。やがてバイクは一本の裏路地で停止した。咲夜はヘルメットを外し、風で乱れた長い髪をかき上げる。「着いたよ」千暁もバイクから降り、ヘルメットを後部座席に置いた。周囲を見回すが、ここがどこなのかまるで分からない。路地を照らしているのは薄暗い街灯だけ。辺りは陰気な空気に包まれ、鼻をつく生ゴミの臭いまで漂っている。遠くからは音楽も聞こえてくる。どうやらどこかのナイトクラブかバーの裏手らしい。咲夜はバイクにもたれながら、ほどけた髪を手早く高い位置でポニーテールにまとめた。そして千暁のもとに歩み寄ると、自然な仕草で彼の手を取る。「こっち」と言って、そのまま暗闇の奥へと進み始めた。千暁は繋がれた手を見下ろし、思わず口元を緩める。何も言わず、その後をついていく。二人の姿は夜の闇へと溶け込んでいった。しばらく歩いたところで、咲夜はスマートフォンを取り出し、短いメッセージを送信する。千暁は横目でスマートフォンの画面を覗いた。そこに表示されていたメッセージは、たった【着いた】一言だけだった。送信後、咲夜はスマホをポケットにしまう。何を企んでいるのか分からない。だが千暁は黙って彼女の隣に立っていた。しばらくすると、静寂を破るように――ガシャン!鉄扉の開く重い音が響いた。続いて、一人の男がふらふらと外に出てくる。酔っているのか、足元はおぼつかない。その姿を見た千暁は目を細めた。――おや。晴南じゃないか。反射的に咲夜に視線を向ける。まさか、彼女は晴南のためにここまで来たのか?そう思った瞬間、胸の奥に嫌な感情がむくむくと湧き上がる。晴南はかなり飲んでいるらしい。前かがみになりながら壁に手をつき、今にも吐きそうな様子でえずいている。千暁が勝手に嫉妬しているその時だった。いつの間に用意していたのか。咲夜の手には大きな麻袋が握られていた。そして彼女は晴南の

  • 元カレの宿敵の腕で幸せになります!   第232話

    メッセージを見た咲夜は、スマートフォンを手にしたままウォークインクローゼットに向かった。外出に適したスポーツウェアに着替えると、そっと部屋のドアを開ける。家の中は静まり返っていた。詩乃も瞳も、すでに眠っているのだろう。咲夜は足音を忍ばせながら階段を下りた。少しでも物音を立てて、二人を起こしてしまわないように。ガレージに着くと、一台のカスタム仕様の黒いバイクの前で立ち止まる。ヘルメットを被り、乗り込もうとしたその時――「こんな時間に、どこに行くんだ?」突然聞こえた声に、咲夜の心臓が跳ねた。慌てて顔を上げると、いつの間に来たのか、そこには千暁がいた。咲夜のガレージは、ちょうど千暁の家と隣接している。よく見ると、彼の髪には数枚の落ち葉が引っかかっていた。咲夜は目を見開く。「……まさか、塀を乗り越えてきたの?」どう見ても、自宅側のフェンスを越え、こちらの敷地に入り込んだとしか思えない。天下の荻野家の御曹司が、深夜に隣家の塀をよじ登るなど。そんな話が広まれば、イメージに関わるどころの騒ぎではない。それ以上に、千暁がそんならしくない行動を取ったこと自体が信じられなかった。図星を突かれた千暁は一瞬表情を強張らせる。「ち、違う。ちゃんと正面から来たんだ」咳払いをしながら反論した。何があっても、塀を越えてきたなど認めるわけにはいかない。千暁はずっと、咲夜からの返信を待っていた。だが、いつまで経っても返事は来ない。瞳から、咲夜たちが夕食を済ませて無事帰宅したと聞き、仕事を片付けた彼も家に戻ってきた。彼の主寝室のバルコニーは、ちょうど咲夜の寝室側を向いている。二棟の屋敷の間にはそれなりの距離があるものの、その気になれば向こうの様子をある程度確認できた。咲夜は寝る直前まで厚手のカーテンを閉めない。時折、窓辺を通る彼女の影がカーテン越しに映ることもある。だから千暁は、ずっと咲夜の様子を気にかけていた。そしてガレージの灯りが点いたのを見た瞬間、こんな深夜に出かけるつもりだと察した。正面から回っていては間に合わない。そう判断した結果が、塀越えだった。咲夜が車ではなくバイクに乗ろうとしているのを見て、千暁はついに声を上げた。彼女がバイクに乗ることは知っている。だが

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  • 元カレの宿敵の腕で幸せになります!   第4話

    実家へ向かう帰路の途中、咲夜のスマートフォンに晴南から着信が入った。受話器越しに響いてきたのは、怒りに我を失った彼の声だった。「咲夜、今すぐ病院に来い。這いつくばってでも洸に謝るんだ」背後では、洸のすすり泣く声がかすかに混じっている。想像するまでもない。晴南は洸を不憫に思うあまり、怒りの矛先をすべて自分へ向けようとしているのだ。咲夜は深く考えることもなく、電話口から浴びせられる怒号を無視し、そのまま通話を切った。しかし晴南は執拗だった。すぐさま何度もかけ直してくる。病院へ来て謝罪するまで決して許さない――そんな執念すら感じさせる勢いだった。苛立ちが限界に達した咲夜は

  • 元カレの宿敵の腕で幸せになります!   第3話

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  • 元カレの宿敵の腕で幸せになります!   第1話

    「あなたと結婚するわ」区役所の前。閉庁時間を過ぎ、もはや人の出入りのないガラスの自動ドアを見つめながら、花江咲夜(はなえ さくや)はスマートフォンを取り出し、ある番号へ電話をかけた。今日は、森崎晴南(もりさき せな)と入籍する約束の日だった。それなのに、彼女は朝九時から午後五時半まで待ち続け、手元には十数枚もの整理券が溜まっていた。結局、晴南が姿を現すことはなかった。入籍を言い出したのは晴南の方なのに、すっぽかしたのも彼だった。これで、咲夜が彼に約束を破られたのは三度目になる。咲夜はもう使い物にならない整理券をゴミ箱に捨て、背を向けると、晴南の宿敵である荻野千暁(お

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