夜、ホテルへ戻ってからのことだった。最近ろくに眠れていない沙羅の様子を見て、智也は愛莉の付き添いをさせなかった。それでも沙羅は何度も、自分が愛莉の身支度をすると申し出た。だが結局、彼女は智也の意向を押し切れなかった。愛莉を部屋に連れて戻ると、智也は湯を張り、ひとりで入るよう促した。風呂を済ませた愛莉は、パジャマ姿のまま智也のベッドによじ登った。そして彼の腕の中にもぐり込み、甘えた声で尋ねた。「パパ、これから先、子どもは愛莉だけ?」智也は手にしていた経済誌を置き、愛莉の顔を見て訊き返した。「どうした?」愛莉は唇を尖らせた。「先に答えて」智也はしばらく考えてから、静かに答えた。「ああ」もし玲奈と離婚しないのなら、もうひとり子どもを持つことも考えていただろう。だが離婚するのなら、愛莉に異母きょうだいを作るつもりはなかった。その返事を聞いた愛莉は、さらに問いを重ねた。「じゃあ、ララちゃんは?パパの赤ちゃん、産まないの?」智也は淡々と言った。「沙羅が産むのが怖いって言うなら、産まなくていい」愛莉は気のない声で「ふうん」とだけ返した。智也は身を横に向け、愛莉の小さな顔をのぞき込んだ。「どうした。ご機嫌斜めか?」愛莉は顔を彼の胸に埋め、くぐもった声で言った。「ううん。ただ聞いてみただけ」愛莉は雅子から、沙羅はこれからパパとの間にあと二人子どもを産むのだと聞かされていた。そうなれば、自分は余計な存在になってしまう。誰からも愛されなくなる。だからこそ、そんなことを尋ねたのだ。それにさっき浴室で、風呂上がりに自分の体のあざを見たとたん、頬を伝う涙が止まらなくなった。その瞬間、ふいに玲奈のことが恋しくなった。お母さんがいてくれたらよかったのに。……玲奈は智也との電話を終えたあと、彼がためらいもなく、時間どおりに来ると約束したことで、胸のつかえが少し下りた。病室にいてもなかなか眠れず、少し外の空気を吸おうと廊下へ出た。だが救急外来のロビーの入口まで来たところで、真正面から見覚えのある姿と鉢合わせた。涼真だった。その姿を見た瞬間、玲奈の顔に驚きと困惑が走った。「どうして、あなたが……」だが言い終える前に、涼真がふてぶてしく言葉を奪った。
Baca selengkapnya