明と颯真が車を走らせ、一行は山頂の小さな別荘へとたどり着いた。山の上からの景色は見事だった。眼下を見渡せば、久我山の街が半分以上、一望できる。まだ昼間だというのに、遠くに広がる街並みはどこか幻想的な魅力を放っていた。山の空気は澄みきっていて、大きく息を吸い込むと、胸の奥まで清々しさが満ちていく。車を降りた玲奈は、それだけで少し気分が軽くなった。昨夜酒を飲んだせいで、まだ体にはうっすらと酒の匂いが残っていた。それに気づいた拓海が、訝しげに声をかけた。「朝から酒びたりだったのか?」相変わらず、口調は軽くて締まりがない。けれど玲奈は、ときどき思うのだ。こういう人でも、根のところでは案外いい人なのかもしれないと。智也とは違う。口は悪いし、ふざけたような物言いも多い。それでも、嫌悪を覚えるようなことは一度もしてこなかったし、むしろ何度も自分を助けてくれた。けれど、その優しさは本来、望月晴子へ向けられるはずのものだったのだと思うと、胸の内に言いようのない落ち着かなさが広がった。玲奈の表情が、さっきまでの和らいだものから、次第に不安げなものへ変わっていくのを見て、拓海は眉をひそめた。「どうした?俺に怒ってるのか?」そう言いながら、彼はゆっくりと距離を詰め、玲奈の黒い瞳をのぞき込んだ。玲奈はそっと手を伸ばして彼を押し返した。「荷物を運ぶの、手伝ってくる」そう言うと、拓海に囲い込まれるような空気から逃げるように、すぐその場を離れた。車のほうへ向かって荷物を持とうとすると、明がそれを止めた。「玲奈さんはいいよ。俺と颯真で運ぶから、向こうでゆっくりしてて」玲奈はあたりを見回してから、また言った。「じゃあ、先にテントを立てるね」言い終わるより早く、拓海が先にテントの入ったバッグを取りにいった。袋からテントを出し、広げようとしたものの、組み立てにはどうしても両腕を大きく使わなければならない。その動きが傷に障るのではないかと、玲奈は思わず気になった。彼女はすぐに駆け寄り、拓海を止めた。「私がやるわ」そう言って、その手からテントを取り上げた。ちょうどそのとき、明が車から最後の荷物を下ろし終え、その言葉を耳にした。顔を上げてこちらを見ると、彼は半ば冗談めかして笑った。
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