Tous les chapitres de : Chapitre 471 - Chapitre 480

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第471話

「そう言ってくれると、本当に嬉しいよ。ずっと海外で育ったから、どんな子だろうと案じていたけれど、お前の考え方はちっとも向こうの人間らしくないね。本当に、素直でいい子だよ」志津は目尻に皺を寄せて応えた。「お前が来てから、この家もすっかり明るくなった。お前が家族の間を取り持とうと、日頃から色々と気を配ってくれているのも分かっているよ」「だからね、お前には期待しているんだ。これからも立派に成長しておくれ」普段は身内の姿もない広い屋敷で、手持ち無沙汰な日々を過ごしてきた志津にとって、こうして若者たちに囲まれながら食卓を囲む賑やかなひとときは、何にも代えがたい幸福だった。「おばあちゃん、約束しますよ。これからは仕事が休みの日はいつでも顔を出しますし、ずっとそばにいます。父さんはまた向こうへ戻ってしまって、次いつ来るかは分かりませんが……父さんがどうであれ、僕はずっと国内に残るつもりです」颯馬は居住まいを正し、さらに言葉に熱を込めた。 「これまでこちらの文化に触れる機会もなくて、父さんから拝島家の話を聞かされるだけでした。でも、実際にこちらへ来てみると、本当に居心地がよくて。どうしてもう少し早く来なかったんだろうって、後悔しているくらいなんですよ」颯馬の表情は真剣そのもので、言葉の端々から今の環境を心底愛しているような純粋な熱意が伝わってきた。仲睦まじく語り合う二人の姿を傍で眺めながら、紫音の胸中はひどく複雑だった。相手に対する警戒心は、いまだに微塵も解けていない。決定的な理由は分からない。だが、颯馬の振る舞いには、どうしても拭い去れない違和感が付き纏うのだ。しかし、これほど嬉しそうにしている志津に、あえて冷や水を浴びせるような真似はできなかった。今はただ、颯馬が本心から志津の幸せを願っているのだと、穏便に解釈してやるしかない。確固たる証拠もないのに「あの男には裏がある」などと口を出せば、かえって自分たちが不当に彼を敵視しているように見えてしまうだけだ。紫音はそっと息を飲み込み、穏やかな微笑みを崩さずに見守り続けた。「あ、そうだ。紫音さん。紫音さんの会社で最近新しいプロジェクトを動かしていると耳にしまして。少しでもお役に立てればと思って、いくつか資料を用意してきたんです。紫音さんは僕なんかよりずっと優秀ですから、参考になるかは分か
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第472話

プロジェクトのために海外のバックグラウンド調査が必要だったのだが、最近の忙しさに加えて現地の人脈も乏しく、調査は完全に手詰まり状態になっていた。まさかこのタイミングで、そのピースを颯馬が直接埋めてくれるとは。到底信じられないほどの幸運だった。「颯馬くん、これ……本当に助かるわ。探してもなかなか見つからなかったデータばかりだもの。持ち帰って、すぐにでもじっくり研究させてもらうわね」紫音は宝物でも扱うかのようにファイルを胸に抱き寄せ、興奮を隠しきれない声で礼を言った。「もし分からないことがあったら、本当に頼ってしまうかもしれないけど……貴重な時間を奪ってしまわないかしら?」「紫音さん、家族なんですからそんなに気を遣わないでくださいよ」颯馬は朗らかに笑って手を振った。「その資料、大学時代に課題でまとめたリサーチを引っ張り出してきただけですから。本当にただのついでですよ。紫音さんの役に立つなら何よりです」「それに、こちらに戻ってきてから、兄さんにも紫音さんにも大変お世話になっていますから。これくらいのお手伝い、当然のことですよ」紫音が心から喜んでいるのを見て、颯馬の口元にも満足げな笑みが浮かんでいた。「まったく、お前たちがこうして助け合っているのを見ると、私も本当に鼻が高いよ」志津は目を細め、深く頷きながら言葉を紡いだ。「拝島家は色々と複雑だからね。親族同士のいざこざでお前たちの仲までギスギスしないか、ずっと心配していたんだ。でも、大人の汚い都合なんて若いお前たちには何の関係もない。どこへ行こうと、お前たちは拝島家の人間なんだ。これからもずっと、こうして手を取り合って生きていっておくれ」志津の言葉には、当主としての確固たる願いが込められていた。だが、そこで一拍置くと、志津は急に真剣な面持ちで紫音と律に向き直った。「ところで、律、紫音。以前にも話したけれど、子どもを作る件、本気で考えてくれているんだろうね?」出し抜けの催促に、紫音は一瞬言葉を詰まらせた。「あの時ははぐらかされたけれど、お前たちももういい歳なんだ。そろそろ本腰を入れてくれないと、こっちが待ちくたびれてしまうよ」これまでも何度かこの話題は出たが、志津がここまで本気で、しかも単刀直入に切り込んできたのは初めてだった。高齢の志津にとって、曾孫の顔を見ること、つまり「四世
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第473話

だが、紫音と律にとっては違った。今すぐ子どもを急ぐよりも、互いに深く信頼し合い、公私ともに最高のパートナーとして支え合いながら事業を成長させていくことの方が、今の二人にとっては遥かに重要だったからだ。「若い人たちはいつもそうやって後回しにするんだから。忙しいなら、私がいくらでも面倒を見てあげるじゃないか」志津はピシャリと言い返し、まったく引く気配を見せなかった。「それにね、お前の会社はこれからもっと大きくなっていくんだろう?なら、先に行けば行くほど今以上に忙しくなるはずだよ。『忙しい』なんて言い訳にしてたら、キリがないじゃないか」「ですが……」「二人の愛の結実なんだよ。二人とももう立派な大人なんだから、そろそろ本気でこの問題と向き合いなさい」志津の眼差しは真剣そのもので、語気には強い意志が込められていた。どうやら今回ばかりは、ただ「自然に任せる」という曖昧な返答でやり過ごすことは許してくれないらしい。「おばあちゃん、僕は兄さんや紫音さんの考えももっともだと思いますよ」 颯馬がすかさず横からフォローに入った。「今の若い世代はそういうことをあまり急ぎませんし、二人ともまだ若いですから。一番脂の乗っている時期に仕事を優先するのは、正しい選択じゃないでしょうか」颯馬はにこやかに笑いかけ、さらに言葉を続けた。「おばあちゃんが兄さんたちを想って気を揉んでいらっしゃるのはよく分かります。でも、紫音さんが言うように、焦りすぎは禁物ですよ。ですから、どうかあまり思い詰めないでください。ご自身の体を労わって、一日でも長く僕たちのそばにいてくださる方が、ずっと大切ですからね」颯馬は手慣れた様子で志津を優しく宥めた。彼の口から紡がれる言葉はいつも穏やかで耳触りがよく、志津もまた、こうして孫から気遣われ、慰められることにすっかり気を良くしているようだった。「はいはい、わかったよ。お前たちは本当に、自分なりの考えをしっかり持っているねえ。どうやら、この年寄りの出る幕はもうないみたいだね」 志津はふっと息を吐き、口元を綻ばせた。「さあ、この話はもうおしまい。せっかくの料理が冷めてしまうから、早く食べようじゃないか」最後には志津のほうが折れる形となった。若者たちのペースにはどう足掻いても敵わないと悟りながらも、その表情には呆れよりも深い愛情が滲み出ていた。本家で
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第474話

「まったく二人とも、大げさすぎるのよ。私なんかとっくに退院してよかったのに、あなたたちがどうしても検査を受けろって譲らないから。結果が出るまで家に帰してくれないなんて、もう何て言ったらいいか」琴音はふんわりと眉をひそめ、不満げに唇を尖らせた。「それにね、家に帰っていればこんなのすぐに治ってたわ。病院は息が詰まるし、毎日退屈で退屈で。お父さんがずっと付き添ってくれてても、自由がないのは耐えられないのよ」大人気ない態度は取りたくないと思いつつも、琴音は病院という窮屈な空間にすっかり愛想を尽かしていた。「はいはい、お母さん。もう退院手続きも終わったんだし、今から帰るんだから。続きは家でゆっくり聞くわよ」紫音は、時々こうして子供のように駄々をこねる母を微笑ましく見つめた。一度こうと思い込むと誰が何を言おうと曲げない人だが、今の母の頭の中は、きっと兄の州のことでいっぱいで、自分の体調など二の次なのだろう。以前の母は決してこんなふうではなかった。本来はとても穏やかで思慮深い人なのだが、こと自分たち兄妹の将来に関わることとなると、一切の妥協を許さない激しさを見せるのだ。「ああ、よかった。やっと家に帰れるわ。帰ったらゆっくりお風呂に入って、ふかふかのベッドで思い切り眠るんだから」琴音はすっかり上機嫌になり、迎えに来た夫と娘と共に足取り軽く病室を後にした。しかし——病院の正面玄関を抜けようとしたその時だった。前方を歩いていた人物の姿に気づき、琴音の足がぴたりと止まる。そこに立っていたのは、他でもない息子の州だった。それまで明るく華やいでいた琴音の顔色が、息子の姿を認めた瞬間にサッと険しく沈み込む。曲がりなりにも自分を心配して迎えに来た息子に対し、琴音は容赦のない冷たい声を浴びせた。「……前にもはっきりと伝えたはずよ?もうあなたみたいな息子は必要ないって。どの面下げてここまで来たのかしら」琴音の態度は、あからさまに棘を帯びていた。以前、州から投げつけられた拒絶の言葉が、親としての琴音の心を深く傷つけていたからだ。昔からずっと親の言うことをよく聞き、反抗などしたこともない自慢の息子だったのに、「あの女」と関わってから人が変わったように自分に刃向かうようになった——その事実が、どうしても許せなかったのである。「母さん……もう済んだことじゃないか。
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第475話

それは、母親としての切なる願いであり、究極の愛情表現でもあった。我が子により良い人生を歩んでほしいと願わない親などいないのだ。「ちょっとお母さん、もうその話は終わり!お兄ちゃんも、お母さんのことが心配でわざわざ来てくれたんじゃない。お母さんが入院している間、お兄ちゃんがどれだけ自分を責めていたか分かってるの?」紫音はたまらず二人の間に割って入り、強引に流れを断ち切った。ただでさえ傷ついている兄の前で、なぜわざわざその話題を蒸し返すのか。傷口に塩を塗るような真似は、紫音には痛々しくて見ていられなかった。「さあさあ、過ぎたことはもう水に流そうじゃないか。どんなにあれこれ言ったって、俺たちは家族なんだ。想い合っていることに変わりはない。ほら、早く帰るぞ。お母さんはもう待ちきれないんだからな。病院でもずっと家に帰りたいとこぼしてばかりいたんだ」見かねた隆之介が間に入り、それ以上重苦しい話題が続かないようにと明るい声で促した。実家に戻ると、さっそく家族揃って退院祝いの食卓を囲むことになった。もちろん、そこには律も呼び出されていた。琴音は、かねてより律のことを実の息子のように可愛がっていた。娘の紫音を心から大切に扱い、どんな時も細やかな気配りを見せるこの婚約者が、どうしようもなく気に入っていたのだ。琴音にとって律は文句のつけようのない完璧な娘の相手であり、拝島家の複雑な内情など気にする素振りも見せなかった。大切な娘に尽くしてくれるならそれで十分だし、律の判断を信じているからこそ、口出しするつもりもなかった。「そういえば、律くん。私が入院してから、朱美さんとはすっかりご無沙汰してしまって。まだ海外にいらっしゃるの?いつ頃戻られるのかしら……なんだか、少し会いたくなっちゃったわ」食後の団欒の最中、琴音がふと思い出したように尋ねた。律の母である朱美は、夫の宏が帰国して以来ずっと海外に滞在していた。まともに顔を合わせればすぐに衝突してしまう両親は、同じ国にいるだけでも互いに苛立つため、朱美が意図的に距離を置いているのだ。「最近は、私もあまり母とは連絡を取れていないんですよ。向こうでの遊びに夢中なようで、電話をかけても繋がらないことの方が多いんです。父が国内にいるうちは絶対帰らないと言っていましたが、その父も今は海外ですからね」困ったように微笑
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第476話

律は微かに目を伏せ、静かな声で応えた。「ただ、自分の立場としてすべきことをこなしているだけです。時には判断を間違えることもありますし、何より……仕事にかまけて、紫音との時間すらまともに作れていないんですから」律の胸の奥には、常にその罪悪感が横たわっていた。祖母である志津を安心させ、親族たちから拝島家を守るために奔走しているが、そのしわ寄せを一番身近で受けているのは他でもない紫音なのだ。それなのに、紫音も彼女の家族も決して自分を責めることなく、むしろその姿勢を評価し、常に温かく励ましてくれる。この京極家の人々がどれほど自分の助けとなり、困難な日常を耐え抜くための強い原動力になっているか、律は身に染みて感じていた。「若いんだから、仕事に打ち込むのは当然のことよ。それに、あなたが紫音を心の底から大切にしてくれていることは、私たちが一番よく分かってるわ。少しでも時間ができたら、この子のために尽くしてくれているじゃない。だから、あなたになら何の心配もなく紫音を預けられるのよ」琴音は慈しむような眼差しで律を見つめた。「私はね、二人がこれからも一緒に壁を乗り越えて、ずっと幸せでいてくれることだけを願っているの。これから先、何が起ころうとも、私たち家族は全員あなたの味方よ。だから何も恐れなくていいの。今は朱美さんが海外にいらして、身近に心を開いて話せる相手が少ないかもしれないけれど……もし何か悩んだり、行き詰まったりした時は、いつでも私に話しにいらっしゃい。家も近くなったし、私でよければいつでも話を聞くわ。ここはね、いつだってあなたの家なんだから」琴音は、律が幼い頃からその成長を見守ってきた。昔から責任感が強く、聡明で誠実な少年だった彼を知っているからこそ、目の中に入れても痛くない大切な娘を託す気になったのだ。彼に対する揺るぎない絶対の信頼がなければ、これほど安心して娘の隣を任せることなどできなかっただろう。「ありがとうございます、琴音さん。……実は時々、こうして温かい家庭を築かれている皆さんのことが、本当に羨ましくなるんです。互いを思いやり、常に家族のことを一番に考えている。お兄さんは妹を守り、妹はお兄さんを気遣う。誰かを蹴落とそうとするような腹の探り合いもない。そんな関係が、純粋に素晴らしいなと」律の言葉には、隠しきれない本音が滲んでいた。幼
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第477話

律は真っ直ぐに琴音の目を見つめ、偽りのない本心を口にした。権力闘争に巻き込まれ、綱渡りのような日々を送る自分に対して、紫音は何かを要求することもなく、ただ静かに寄り添い、一番の理解者でいてくれる。その存在がどれほど自分の支えになっているか、言葉では言い表せないほどだった。「それなら良かったわ。これからずっと一緒に生きていくんだもの、当然のことよ。正式な入籍はまだでも、あなたたちはもう立派なパートナーなんだから。お互いを思いやり、支え合うのは当たり前のことなのよ。あの子があなたのために努力するのは、決して特別なことじゃないわ」律の誠実な言葉を聞き、琴音は心底ホッとしたように微笑んだ。かつての紫音は、恋愛となると周りが見えなくなり、自分の感情だけで突っ走ってしまう危うさがあった。しかし、こうして律との関係を大切に育み、彼を陰から支える姿を見ると、娘も立派な大人の女性に成長したのだと実感できる。母親として、これほど安心できることはなかった。「さあさあ、堅苦しい話はその辺にしておこう!せっかく家族が揃って、こんなに美味しいご飯が並んでるんだから。冷めないうちにみんなで食べようじゃないか!」隆之介が大きな声で笑い飛ばし、グラスを掲げた。こうして食卓を囲み、互いを大切に想う家族の温かい時間は、何にも代えがたい宝物だった。昼食を終えると、紫音と律、そして州の三人はそれぞれの仕事に戻るためにマンションを出た。「お兄ちゃん……つらいのは分かってる。でも、お母さんの前じゃ何も言えないよね。ずっと一人で抱え込んでて、すごく苦しいと思う。でも、お母さんがあんな状態だったから、これ以上逆らうことはできなかったんだよね」歩きながら、紫音は隣を歩く州を気遣うように声をかけた。兄がどれほど無力感に苛まれ、どうしようもない現実に打ちのめされているか、痛いほど伝わってきたからだ。「ああ……正直、どうしていいか分からないよ。母さんの気が済むなら、俺は何だってする。自分の気持ちを殺してでも従ったんだ。それなのに……母さんは俺たちが付き合っていたことすら全否定してくる。言い返したくなる時もあるけど、理性が邪魔をしてそれもできないんだ」州は自嘲気味に笑った。母の猛反対を受け入れ、愛する女性との別れという最大の犠牲を払ったというのに、未だにチクチクと嫌味を言われ続
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第478話

「それじゃあ、私はそろそろ会社に戻るね。お兄ちゃんたちも仕事でしょう?最近はプロジェクトも立て込んでいるし、新人が入ってきたばかりで指導もしなきゃならないの。たまには休みが欲しいけど、そんな暇もないくらい忙しくて」「あまり自分を追い詰めるなよ。たまには息抜きしろ。昔はお前が自分で会社をやるなんて反対してたけど……こうして自分の道を切り開いて、事業も軌道に乗せているのを見ると、兄としてすごく嬉しいよ。これからも頑張ってほしいけど、くれぐれも体調には気をつけるんだぞ」「心配しないで、お兄ちゃん。自分の体くらいちゃんと大切にするから。それに私、すごく有能でしょ?これくらいどうってことないわ。じゃあ、先に戻るね!」手を振って明るく立ち去る紫音を見送り、州と律もまたそれぞれの会社へと戻っていった。オフィスに着いた紫音は、すぐさま仕事モードへと切り替わった。「蘭、このプロジェクトの資料を整理して私に送ってくれる?」アシスタントの蘭にファイルを差し出しながら手際よく指示を出す。「はい、紫音さん!お任せください。今日、紫音さんがいらっしゃらない間、私の方でも新人たちの様子を見ておいたんですけど、みんな本当に優秀で素晴らしい人たちばかりです。さすが紫音さんの人選ですね!」弾むような声で答える蘭の表情は、活力に満ち溢れていた。失恋のショックを引きずっていた以前の彼女とは別人のような明るさだ。しっかり吹っ切れたようで、本来の前向きな姿勢を取り戻していた。「蘭がしっかり見ててくれるなら安心ね。もし新人のことで何か気づいたことがあれば、いつでも報告して。問題は早めにクリアした方が、みんなもすぐに職場に馴染めるから。……そうだ、今日の夜、どこかお店を予約しておいてくれない?みんなでご飯に行きましょう。初めての決起集会も兼ねてね」「分かりました!」「私もまだ新人たちの性格をよく把握していないから、この機会に親睦を深めておきたいの」会社の規模は小さくとも、社内の雰囲気づくりにはこだわりたい。これから苦楽を共にする仲間なのだから、互いに助け合い、リスペクトし合える関係を築いていきたいと紫音は考えていた。「かしこまりました!みんなが打ち解けられそうな、いいお店を探しておきますね」蘭は生き生きとした笑顔で頷き、颯爽と自分のデスクへと戻っていった。そ
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第479話

浩一はなぜかこの集まりに参加したくなり、彼女たちの会社の雰囲気を見てみたいと持ちかけた。「えっと……私としては構わないと思うんですけど、私の一存では決められないので。紫音さんがもうすぐ入って来られるから、直接聞いてみてください」決起集会の支払いをするのは紫音だ。アシスタントの自分が勝手に参加者を増やすわけにはいかないと、蘭はきっちりと線を引いた。「わかった、そうするよ」浩一は頷き、レストランの入り口に姿を見せた紫音の方へと歩み寄った。「浩一さん?こんな所でどうしたの。まさか、今日の決起集会を狙ってタダ飯食いに来たわけじゃないでしょうね?うちの会社にスパイでも潜り込ませてるの?」突然の浩一の登場に、紫音は目を丸くして冗談めかした。「いくらなんでも大げさだな。さっきまでここで取引先と食事をしてただけだよ。無事に契約が取れて、相手が帰ったところなんだ。せっかくだから、お祝いがてら俺も一緒に食べさせてよ」軽口を叩きながらも、浩一の視線は無意識に蘭の方へと向いていた。自分でも不思議なほど、先ほどあの明るい笑顔のアシスタントと目を合わせた瞬間、心がふっと軽くなり、この場に留まりたいという衝動に駆られていたのだ。「うちの決起集会にあなた関係ないでしょ?場違いだからお断りよ。今日は新しく入ったメンバーと親睦を深める大事な場なの。外部の人間がいたら遠慮して本音で話せないじゃない」紫音は少しの躊躇もなく、浩一の申し出をきっぱりと撥ねつけた。突然タダ飯をたかろうとするばかりか、身内だけの集まりにまで図々しく割り込もうとする友人にあきれ果てていた。「じゃあ、今日の会計は俺が全部持つよ!おごるから頼む!それに、込み入った仕事の話ならまた後日ゆっくりすればいいだろ?」浩一はめげずに食い下がり、絶対に帰ろうとしない。なぜここまでしてこの集まりに参加したいのか、自分でも明確な理由は分からなかった。ただ、どうしても紫音たち——いや、正確には蘭のいる場所に留まりたいという強い衝動が彼を突き動かしていた。最近、蘭が自分の前から完全に姿を消して以来、浩一は明らかに調子が狂っていた。言葉では上手く説明できないが、まるで生活の中から大切なピースがすっぽりと抜け落ちてしまったような、言い知れぬ虚無感。ふとした瞬間に蘭の顔を思い出し、無性に会いたくなるの
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第480話

「紫音、こうなったらもう何も隠さないよ。……正直、自分でも蘭さんに対してどういう感情を抱いているのか、よく分からないんだ。ただ、あの子が俺から離れていってから、生活の中から大切なものがすっぽり抜け落ちてしまった気がして」浩一は自嘲気味に髪を掻き回した。「今の州みたいに、一日中上の空でさ。これまでこんな感覚になったことは一度もなかったんだ。俺の心の中にはずっと別の人がいて、その人とは結ばれなくても、一生その人だけを想い続けるって決めていたはずなのに」それは間違いなく、目の前にいる紫音自身への長年の想いを指していた。「でも、俺が怪我をして入院していた時、あの子が付きっきりで世話をしてくれただろう。あの時間が、俺は本当に心地よかったんだ。あの子がそばにいてくれる日常に、いつの間にかすっかり慣れきっていたんだろうな」浩一の言葉には、強い後悔と戸惑いが滲んでいた。自分の感情が本物の愛情なのか、ただの執着や依存なのか分からない。もし安易にその感情を受け入れて、後から「やっぱり違った」と気づいた時、また彼女を深く傷つけてしまう。それが怖くて、一歩を踏み出せずにいるのだ。「今頃になって蘭の良さに気づくなんて、遅すぎるわ」紫音の返した声は、冷たく厳しいものだった。「あなたが一番愛されていた時間は、もうとっくに過ぎ去ったの。さっき見たでしょう?今の彼女はあなたへの想いを完全に断ち切って、本来の前向きな姿を取り戻しているわ」紫音は真っ直ぐに浩一を見据え、釘を刺すように言った。「お願いだから、これ以上あの子の心を乱さないで。中途半端に近づけば、あの子に無用な期待や負担をかけるだけよ。もし後になって、あなたの感情がただの『未練』や『習慣』に過ぎなかったと分かったら、蘭はどうなるの?何度あの子を傷つければ気が済むのよ」紫音は、二人がこのまま結ばれるとは到底思えなかった。彼らの間に起きたこれまでの出来事を思えば、やっと失恋の傷が癒え、立ち直りかけている蘭を、再び浩一の身勝手な感情の渦に巻き込ませるわけにはいかないのだ。「お前の心配は痛いほど分かるよ。そもそも全部俺が悪いんだから。でも……今の俺には、自分の感情をコントロールできないんだ。だから、もう一度だけあの子と向き合ってみたい」浩一は苦しげに顔を歪めた。自分でもどうしていいか分からない。それでも、どうし
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