Tous les chapitres de : Chapitre 481 - Chapitre 490

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第481話

「なあ紫音、少しだけチャンスをくれないか。あの子に近づいて、俺たちに少しでも可能性があるのか、俺の感情が本物なのか、確かめさせてほしいんだ。……もし、本気であの子を愛していると確信できたら、俺は全力であの子にアプローチする。絶対に手放さない。でも、もしこれが俺の勘違いで、ただの錯覚だったと気づいたら……その時は未練がましく付き纏ったりせず、きれいさっぱり身を引く。絶対に傷つけないって約束する。昔のことだって、本当に申し訳なかったと思ってるんだ」浩一の眼差しは真剣そのものだった。ただ自分の未練を晴らしたいだけではなく、お互いが本当に幸せになれる道を真摯に探りたいという、彼なりの強い決意が込められていた。「……あなたがそこまで言うなら、私からはもう何も言わないわ。でも、これだけは覚えておいて。これから何があろうとも、蘭を傷つけることだけは絶対に許さない。もし本当に二人が付き合うことになったら、あの子のことを一番に大切にしてあげてね。蘭は本当にいい子なの。仕事には真剣で、人一倍優しくて……」紫音は念を押すように、真剣な眼差しで真っ直ぐに忠告した。「私にとって大切な親友であるあなたのせいで、あの子が再び傷つく姿なんて絶対に見たくないわ。人の想いを無下にするような真似はしないで。感情って、そんな中途半端な覚悟で触れていいものじゃない。もしあの子と向き合うと決めたなら、最後まで誠実に接しなさい」最初は真っ向から反対していた紫音だったが、浩一の引かない姿勢を見て、自分がこれ以上止めても無駄だと悟った。だからこそ、あえて厳しい言葉で先にキツく釘を刺したのだ。「安心してくれ。俺が恋愛に対してどれだけ真面目かは、お前が一番よく分かってるだろ?でなきゃ、叶いもしない相手を何年も一途に想い続けたりしないさ」浩一自身、自分がまた別の誰かを好きになる日が来るとは、つい最近まで微塵も思っていなかった。心の中にいる紫音への思い入れは一生もので、同時にそれは一生の徒労に終わる永遠の後悔だと信じていたからだ。どうせ手に入らない愛なら、もう誰かに報われない想いを懸ける気も起きないし、恋愛そのものに意味などない——そう悟り、すっかり諦めていたはずだった。しかし、蘭の存在は彼にまったく違う感情をもたらした。彼女の真っ直ぐで不器用な姿が、もう誰も好きになることはないと思って
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第482話

「ありがとう。……もし俺たちが本当に上手くいったら、キューピッドのお前に一番感謝しなきゃな。昔、お前が俺たちをくっつけようとしてくれた時は、まだ自分の気持ちに気づいてなくて、無下に断ってしまったけど」浩一は苦笑いを浮かべた。今になって思えば、なぜあの時あんなにも頑なに拒絶してしまったのか、自分でも呆れるほど後悔している。「本当に不思議よね。でも、もし二人に本当に縁があるなら、どれだけ遠回りをしても最終的には必ず結ばれるはずよ。だから、あまり気負いすぎないで、自然体でぶつかってみたら?」最近の浩一は、自分の感情に気づいてからというもの、少し背負い込みすぎているように見える。だからこそ、紫音は肩の力を抜くように優しくアドバイスした。それ以上深い話はせず、二人は並んでレストランの中へと戻った。活気に満ちたテーブルに合流すると、そこからは仕事の枠を超えた賑やかな食事の場が続き、笑い声が弾けた。「みんなが私たちの立ち上げたこの小さなスタジオに加わってくれて、本当に嬉しく思っているわ。これから会社はどんどん大きくなっていくと信じているし、みんなの力で、任されているプロジェクトもより良いものへと発展していくはずよ」グラスを片手に、紫音はテーブルを囲む新入社員たちへ微笑みかけた。「大勢の中からみんなに決めたのは、純粋にうちのカラーにぴったりだと思ったからなの。それに、何よりフィーリングが合ったのよね。これも何かの縁だと思っているわ。うちの職場は、いつだって肩の力を抜いて、和気あいあいと仕事ができる場所であってほしい。だから、お互いに助け合いながらやっていきましょう」真剣に耳を傾けるメンバーたちを見渡し、紫音はさらに言葉を続ける。「これからもみんなの活躍を期待しているわね。一緒に会社を盛り上げていきましょう。それと、もし今後、仕事でもプライベートでも何か悩むことがあったら、いつでも気軽に話してきてちょうだい。私にできることなら、全力でサポートするから」紫音は、弾むような笑顔を見せる社員たちの姿を眺めながら、心から喜ばしい気持ちでいっぱいだった。これから苦楽を共にするうえで、職場の空気は何よりも大切だ。だからこそ、こうして食事の場を設けて親睦を深めようと考えたのだ。集まった面々は皆、驚くほど熱意に満ちており、その表情は前向きで輝いていた。誰一人として
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第483話

今後、浩一の会社と紫音のスタジオは複数の案件を共同で進行していく予定だ。浩一が経営する企業はすでにかなりの規模を誇っており、個人的な繋がりがなければ、誕生したばかりの小さなスタジオと大々的に提携を結ぶことなどあり得なかっただろう。だが、浩一は決して単なる友人への温情で協力しているわけではない。紫音と共に仕事を進めるのは非常にスムーズでやりやすく、何より浩一自身が、紫音のビジネスを動かす手腕を高く評価し、信頼しているのだ。紫音の生み出す企画が常に斬新で、魅力的なアイデアに満ちていることを誰よりも知っているからこその、対等なタッグだった。「さあ、みんなで乾杯しましょう!これから私たち全員がもっと高く飛躍できるように。みんなにも今の仕事を通してたくさんのことを吸収して、一流のプロになってほしいわ。そして、うちのスタジオを一緒に大きくしていきましょう。一つだけ約束する。みんなが本気で努力してくれるなら、私はそれ以上のものを返すわ。他のどの会社よりも手厚く報いるつもりよ」グラスを掲げた紫音は、熱を帯びた声で言葉を紡いだ。「私たちのスタジオは、私が一から育ててきた本当に大切な場所なの。この規模になるまで、数え切れないほどの思いを込めてきた。だからみんなにも、目の前の仕事に真剣に向き合ってほしい。もし今後、やりにくいと感じることや改善すべき点があれば、遠慮なく直接私に言ってね。みんなで最高の環境を作っていきましょう」それは偽りのない、紫音の最大限の誠意だった。レストランのテーブルを囲む真新しい才能たちを前にして、胸の奥には静かな高揚感が広がっている。これから複数の新規プロジェクトが本格的に動き出し、あの小さなスタジオは今、確実な拡大のフェーズに入ろうとしていた。たった二人きりの船出から今日という日を迎えるまで、どれほど険しい道のりだったことか。前の会社を飛び出したあの頃は、こうして新入社員の歓迎会を開ける日が来るなんて夢にも思わなかった。途中で何度も心が折れそうになった。自分の判断を疑い、先が見えずに立ち尽くした夜もあった。それでも諦めずにひたすら前を向き続けた結果が、今の確固たる自信へと繋がっているのだ。料理を取り分けながら少し離れた席からその様子を見つめる蘭もまた、談笑する新人たちを眺めながら万感の思いを抱いていた。気がつけば、いつの間にか社内
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第484話

浩一の申し出のおかげで、紫音は安全に帰宅することができた。家に着いた時にはとっくに日付を越えそうだったが、紫音の心は不思議と満たされていた。ただ、少しだけ体に異変を感じていた。今日はあまりにも雰囲気が良く、可愛いスタッフたちからの乾杯をどうしても断りきれず、勧められるがままにグラスを空けてしまったのだ。元々お酒に強いわけではないため、今になってアルコールが回ってきたらしい。紫音はキッチンに向かい、冷蔵庫から二日酔い防止のドリンクを取り出して一気に飲み干した。胃のモヤモヤが少し落ち着くのを確認すると、そのままベッドに倒れ込み、安心したように深い眠りについた。翌朝。アルコールのおかげかぐっすりと眠れた紫音は、スッキリとした目覚めと共に身支度を整え、足早にスタジオへと出社した。「おはよう、紫音。ずいぶん早いね。てっきり今日は家でゆっくり休んでから来るのかと思ってたよ」スタジオのドアを開けるなり、なぜか既に到着していた浩一から声がかかった。「君が倒れたら、このスタジオは回らなくなるんだから。もう少し自分の体を労わってよね」浩一は心配そうに苦笑しながら、手にしていた紙袋から朝食を取り出して差し出した。紫音は遠慮することなくそれを受け取り、中からおにぎりを取り出して一口かじった。なんと、紫音の大好物である明太子のおにぎりだった。「……気が利くじゃない。でもまさか、これ……私一人分しか用意してないなんて言わないわよね?」紫音は意味ありげに目を細め、ニヤリと浩一の顔を覗き込んだ。浩一がそこまで抜けているはずがない。彼は紫音の分だけでなく、スタジオのスタッフ全員分の朝食を抜かりなく用意していた。おにぎりの他にも、クロワッサンやサンドイッチ、温かいコーヒーに紅茶まで、全員の好みを想定した幅広いラインナップがテーブルに並べられている。「はい、これ。蘭さんはカフェラテが好きだったよね。まだ温かいよ」浩一はそう言って、一番気を使っているのが見え見えのカップを蘭に差し出した。その様子を横目で見ながら、紫音は思わずクスッと笑いそうになった。まるで青春ドラマね。青いわ。同世代のはずの浩一の不器用でストレートな感情のやり取りは、今の紫音から見れば少し滑稽ですらある。けれど、計算のない純粋な想いだからこそ、眩しくて少しだけ羨ましかった。政略結婚から始
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第485話

「早く朝食を済ませてちょうだい。この後、山ほど仕事が待ってるんだから。浩一さん、あなたもよ。みんなの機嫌を取ってばかりいないで、うちのスタジオに協力するからには馬車馬のように働いてもらうからね。私と親友だからって手加減すると思ったら大間違いよ」紫音が発破をかけると、浩一は真面目な顔で深く頷いた。「わかってるよ。コネで手を抜くつもりなんて一切ない。みんながこれだけ一生懸命やってるんだ、俺だけ特別扱いされるわけにはいかないからね」「その意気よ。大いに期待してるからね。きっちり結果を出してくれれば、うちの重要な戦力として認めてあげるわ」紫音は満足げに笑った。そのやり取りの最中、蘭がこっそりと浩一に視線を送っていた。それに気づいた浩一がパッと視線を返すと、蘭は慌てたようにサッと目を逸らす。……ほんと、面白い二人ね。紫音は内心でクスッと笑った。お互いに意識して、こっそり様子を窺い合っている。どちらの胸の中にも特別な感情が渦巻いているのだろうが、過去の経緯があるせいで、どう振る舞えばいいのか分からずに持て余しているのだ。だが、紫音はそんな二人のもどかしい駆け引きに口を挟むつもりはなかった。本来の業務に支障が出なければ、それで十分だ。現在抱えている進行中のプロジェクトは多忙を極めている。朝食を終えるや否や、全員がすぐさまそれぞれの気合いを入れ直し、本格的な業務へと没頭し始めた。浩一はさすがに経営者として場数を踏んでいるだけあって、仕事への順応が早かった。こちらの業務フローを把握するや否や、あっという間にエンジンをかけ、恐ろしいほどの集中力を見せ始める。普段の親しみやすい態度とは打って変わって、真剣に画面に向かう横顔には、ビジネスマン特有の鋭さと魅力が漂っていた。しかし、紫音はそれを一瞥しただけで、すぐさま自分のタスクに意識を戻した。なにしろ、浩一の仕事ぶりには一切心配する必要がない。ずば抜けた能力と自己管理能力を持ち合わせた、極めて優秀な「最高級の労働力」なのだから。これほど頼もしい人材がタダで手に入ったのだ、紫音としては心置きなくこき使うつもりだった。手元の業務が一段落すると、紫音は溜まっていたメッセージの返信を片付け始めた。最近は緊急を要するようなトラブルもなく、業務は順調そのものだ。仕事にはオンとオフのメリハリが欠かせない。一段落つい
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第486話

嬉しそうな歓声が上がるのを見て、紫音はさっそくそのレストランのオーナー――以前からの顔見知り――に連絡を入れ、プライベートルームを押さえた。夕食の予定が決まると、スタジオ内の士気は一気に高まった。退勤時刻までに今日のタスクを完璧に終わらせようと、全員がさらに仕事のピッチを上げる。浩一もご多分に漏れず、猛烈な勢いで作業を進めていた。時折、蘭の様子が気になってチラチラと視線を向けることもあったが、それもほんの数回程度だ。今は何よりも、任されたこの場所で手腕を証明することが最優先だと理解している。浩一はすぐに雑念を振り払い、再びモニターへと全神経を集中させた。全員が信じられないほどの集中力を発揮したおかげで、終業時刻を待たずに大半の業務が片付いてしまった。スタッフたちの手が止まり一段落ついたのを確認した紫音は、定時まで彼らを無理に席へ縛り付けておく必要はないと判断した。「みんな、キリがついたみたいね。それなら少し早いけど、もうお店に向かいましょうか。さっきレストランのオーナーには連絡を入れておいたから、着く頃には準備ができているはずよ。メインの料理は私がいくつか頼んであるけど、他に食べたいものがあればお店でどんどん追加してね」「やったー!紫音さん、本当に最高!」スタッフたちは歓声を上げ、すぐさまパソコンをシャットダウンした。そして、これから向かうレストランで何を食べるかの話題で一気に盛り上がり始めた。中には、スマートフォンの画面を素早くスワイプし、すでにネットで店のメニューを検索している者までいる。移動の間に食べたいものを決めて事前にオーダーを済ませておけば、店に着いた途端にベストなタイミングで料理にありつけるという算段らしい。美味しいものを口にするためなら、労力を惜しまない。食欲を満たすための彼らの執念と機転の早さには、ただただ感心するばかりだ。紫音は呆れ半分に苦笑いしたものの、彼らのはち切れんばかりの笑顔を見ていると、こちらまで楽しい気分になってくる。だから水を差すようなことは決してせず、スマホを覗き込んで盛り上がる若者たちの姿を微笑ましく見守った。やがて、「これも食べたい」「あれも追加で」と全員のリクエストがまとまり、紫音はそれをオーナーへと送信した。これで店に到着する頃には、新鮮で美味しい料理の数々が絶好のタイミング
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第487話

「間違いないね。少なくとも当分はここを離れるつもりはないよ。これだけ恵まれた職場、外を探したってそうそう見つからないからね。待遇も文句なしだし。あ、でも……これだけ馬車馬のように働いてるんだから、特別ボーナスくらいは期待してもいいよね?」浩一が冗談めかして笑うと、紫音はピクリと眉を跳ね上げ、呆れたように彼を睨んだ。「あんたねえ、厚かましいにもほどがあるわよ。こっちの職場を都合よく利用して『自分の目当てのこと』をコソコソやってるくせに。場所を提供してあげてるだけでも感謝してほしいくらいだわ。……まあ、お正月の臨時ボーナスくらいなら、考えてあげなくもないけど」「えー、それだけ?俺だってこのスタジオの売上に相当貢献してるのに。まあいいや、俺が大人だから今回はこれで手を打とう。でも、これからはもう少し俺に優しくしてくれてもいいんじゃない?俺がここで身を粉にして働いてるのは、単に紫音のためだけじゃないんだからさ」紫音は「冗談じゃないわよ!」と声を荒げ、呆れたように浩一の肩を小突いた。二人が和やかに笑い合いながら横断歩道へ足を踏み出した――その瞬間だった。猛烈なエンジン音が響き、赤信号を完全に無視した一台の車が、異常なスピードでこちらへ突っ込んできたのだ。「危ないッ!」スマホをいじりながら後ろを歩いていた蘭が、タイヤの摩擦音に気づいて顔を上げ、悲鳴を上げた。血の気を失い、思わず助けに飛び出そうとした蘭の腕を、傍にいた同僚が必死に掴んで引き留める。「何する気だ、轢かれるぞ!」「でも、二人が……ッ!」蘭が叫んだ時には、もはや車は二人の目前まで迫っていた。運転手の顔が見えた。居眠りでもしていたのか、ハッと目を見開いて慌ててブレーキを踏もうとしているものの、明らかに手遅れだった。凄まじい勢いで迫るヘッドライトの光。状況を瞬時に悟った紫音は、とっさに隣の浩一を力いっぱい蹴り飛ばした。跳ね飛ばされた浩一は間一髪で車の軌道から外れた。だが、彼を逃がした紫音自身に、避ける猶予は一秒も残されていなかった。鈍く、恐ろしい衝撃音が夜の街に響き渡った。車体にまともに弾かれた紫音の体は、まるで糸の切れた人形のように宙を舞い、重い音を立ててアスファルトに叩きつけられた。そして、ピクリとも動かなくなった。キキィィィッ!と甲高いスキール音を立てて車が
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第488話

救急車が到着すると、紫音はすぐさま病院へ搬送され、一刻を争うままに救急救命室へと運び込まれた。手術室の赤いランプが点灯し、重い扉が閉ざされる。蘭は待合室の椅子に崩れ落ち、ボロボロと溢れる涙を拭いもせずに泣きじゃくった。立ち上げの頃から幾度もの修羅場を一緒に乗り越えてきたが、紫音がこれほどの重傷を負う姿など今まで見たことがなかった。ただ扉を見つめることしかできない自分の無力さが歯痒くて、不安で胸が張り裂けそうだった。「蘭さん……落ち着いて。紫音は強いから、絶対に大丈夫だよ……ッ」声の震えを隠しきれない浩一が慰めようとするが、彼自身の顔色も死人のようだった。浩一の胸の中は、言葉にできないほどの激しい後悔と自責の念で埋め尽くされていた。自分の恋心を満たすために、強引に紫音のスタジオに入り込んだ。その結果、自分が彼女をこんな目に遭わせてしまったのだ。あの瞬間、紫音は身を呈して自分を蹴り飛ばしてくれた。彼女が身代わりにならなければ、今あの手術台で生死の境を彷徨っているのは間違いなく自分だった。俺が身代わりになればよかった……俺が、撥ねられればよかったのに……ッ!今さら悔やんだところで時計の針は戻らない。浩一にできることは、祈ることだけだった。「でも……救急車に乗せられる時、名前を呼んでも全く反応がなかったの。もしこのまま……もし、もう目を開けてくれなかったら……!あの運転手、絶対に許さない……ッ!」普段の冷静でしっかり者の姿は影を潜め、蘭は迷子になった子供のように泣きじゃくった。その時、慌ただしい足音が廊下に響き渡った。血相を変えた律と州が、息を切らして駆け寄ってくる。報せを受けて、それぞれの会社からすべてを投げ出して飛んできたのだ。「紫音は!?中か!?いったいどういうことだ、なぜあいつが急に事故になんて遭うんだ!!」妹を溺愛する州は、激しい焦燥と怒りに駆られた目で浩一に詰め寄った。その隣では、律が息を呑み、固く閉ざされた手術室の扉を絶望的な面持ちで凝視している。「……まだ、中で救命処置を受けてる。……本当にごめんッ。俺が不甲斐ないせいで、紫音が俺を庇って……!」浩一は深く頭を垂れ、その場に土下座せんばかりに声を震わせた。いっそこのまま州に殴り飛ばしてもらいたかった。親友の妹であり、律の愛する女性をこんな目に遭わせてしまった
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第489話

「落ち着いてください。患者さんの容態はすでに安定しており、命に別条はありません。ただ、脚を骨折しているため、しばらくはベッドでの休養が必要です。また、頭部にも軽度の脳震盪の症状が見られるので、絶対に安静にさせてください」その言葉を聞いた瞬間、その場にいた全員の肩から一気に力が抜け、安堵の吐息が漏れた。生きてさえいてくれれば、それだけで十分だ。「これから一般病棟へ移しますので、付き添ってあげてください。何か変化があれば、すぐにナースステーションへ。それでは、私はこれで」医師が手短に説明を終えて去っていくと、やがてストレッチャーに乗せられた紫音が病室へと運ばれていった。清潔な白いシーツの上に横たわる紫音の顔は青白かったが、やがて微かにまつ毛が震え、ゆっくりとその目が開かれた。「……みんな、そんな怖い顔で私を囲まないで。大丈夫、もう何ともないから……」その声は痛々しいほど掠れており、ひどく虚ろだった。それでも彼女は、血の気を失って自分を見下ろす大切な人たちを安心させようと、無理に唇の端を引き上げて微かな笑みを作ってみせた。「紫音……どうしてあんな馬鹿な真似をしたんだ!なぜ俺を突き飛ばしたりした!今あのベッドで痛みに耐えているのは、俺であるべきだったのに……!こんなことになるなら、おとなしく突き飛ばされたりするんじゃなかった……ッ」浩一は両手で顔を覆い、声を震わせた。紫音が無事だと分かって少しは安堵したものの、胸を埋め尽くす凄まじい罪悪感はどうしても消え去らない。目の前のベッドに横たわっているのは、彼が長年誰よりも深く愛し続けてきた女性だ。その恋心にはすでに自分の中で整理をつけたはずだったが、彼女が身代わりとなってこれほどの苦痛を背負う羽目になった現実は、浩一の心を無惨に引き裂いていた。「もう……自分を責めないで。あの時は一瞬のことだったから、互いにどうしようもなかったのよ。それより……あの運転手、どういう状況だったのかきちんと調べないと……」紫音は掠れた声で彼を宥めようとするが、途中で小さく顔をしかめた。痛みが強すぎて、もはや局所的なものなのか全身が痛いのかすら分からない。何より頭が鉛のように重く、ベッドの周りに立つ全員がぐるぐると回転しているように錯覚してしまう。実際には誰も動いていないのに、脳震盪の影響で視界が激しく揺れ
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第490話

自分を囲んで本気で心配してくれる彼らの眼差しに、紫音の胸の奥は温かくなった。しかし、これ以上彼らに無用な時間を割かせるわけにはいかない。「紫音さん、他の方たちには帰っていただくとして、私が残って看病します!私なら同性だし、細かいところまでお世話できるはずです。このまま家に帰されても、心配で何も手につきません……ッ」蘭は懇願するように言った。これまでどんな困難な時も、紫音には傍で助けてもらってきた。実の姉のように慕う彼女がこんな重傷を負っているのに、何もできない自分がもどかしかった。「気持ちは嬉しいけど、大丈夫。あなたは早く帰ってちょうだい。スタジオには処理しなきゃいけない仕事が山積みでしょう?あなたが業務を回してくれることが、今の私にとって一番の助けになるのよ」紫音は優しく、しかし毅然とした口調で蘭を諭した。「新しいメンバーがたくさん入ったばかりなんだから、あなたがしっかり彼らをまとめてあげなきゃ。現場で躓いている子がいたら手助けしてあげて。だから、自分の持ち場に戻ってね」蘭の心遣いは痛いほど伝わっていたが、ここに残らせたところで彼女に気苦労をかけるだけだ。「紫音の言う通りだ。君たちはもう帰りなさい。あとは俺たち二人で看るから」州も横から口を添えた。妹の命に別条はないと分かった今、彼としてもようやく少しだけ冷静さを取り戻していた。名残惜しそうに何度も振り返る浩一と蘭をなんとか説得して帰らせると、病室には紫音、律、そして州の三人だけが残された。「本当に……寿命が縮むかと思ったぞ。もしお前に万が一のことがあったら、父さんと母さんにどう申し開きすればいいか分からなかった。……ああ、その二人なら、もう病院に向かってるぞ」州はベッドの傍らの椅子に腰を下ろし、深くため息をつきながら言った。「最初は知らせないでおこうかとも思ったんだがな。無事だと分かった以上、一目顔を見せて安心させてやった方がいいと思って連絡した。どうせ後でバレたら、『なぜ隠していた』って俺がこっぴどく叱られるオチだしな」根が常識人で家族想いな州らしい、先回りした気遣いだった。「お兄ちゃん、どうして教えちゃったのよ……お父さんたちは絶対にパニックになるわ。特にお母さんは最近ずっと体調が優れないのに、これ以上余計な心配や心労をかけたくなかったのに」紫音は眉をひそめ
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