「手厳しいなあ。朱里ちゃん、姉妹揃って僕への扱いが雑じゃない?」「征司さんは、そのくらいがちょうどいいと思います」「ひどい」 征司さんが大げさに胸を押さえる。その横で、志保さんがごく小さく息を吐いた。「朱里さん」「はい」「花は、温室の白を使うのね」 静かな問いだった。 私は頷いた。「使いたいです。でも、全部を白一色にはしません。由理子様の白、華枝様の白、志保さんが守ってきた白。……そこに、私がここへ来てから出会った人たちの色も、少しずつ混ぜたいんです」 志保さんの指先が、膝の上でかすかに動いた。 彼女はしばらく黙っていたが、やがて静かに目を伏せた。「では、温室の鍵はあなたに預けるわ」「え」 思わず顔を上げる。 志保さんはいつもの無表情に近い顔で、バッグから小さな古い鍵を取り出した。 真鍮の表面は長い年月で少し曇り、持ち手の部分に小さな傷がいくつもついている。「華枝様が使っていた鍵よ。由理子の頃から、ずっとあの温室を開けてきたもの」「そんな大切なもの、私が持っていていいんですか」「あなたが使わないなら、誰が使うの」 冷たい言い方だった。 けれど、その声の奥にある柔らかさを、もう私は聞き逃さない。 両手で鍵を受け取ると、金属は思っていたよりも温かかった。志保さんの手の熱が残っている。「ありがとうございます」 深く頭を下げると、志保さんは視線を少しだけ逸らした。「礼を言うのは、式が終わってからでいいわ。あなたの仕事は、まだ山ほど残っているのだから」「はい」 その通りだ。 私は鍵を資料の横に置き、赤ペンを手に取った。 花、席、料理、音楽、導線。 ひとつひとつに、誰かの顔が浮かぶ。 自分の結婚式を作ることは、自分の人生に誰を招き、どんな場所を作りたいのかを選ぶことだった。 胸が怖いほど高鳴る。 花嫁としての緊張ではない。 仕事人として、人生の
Last Updated : 2026-07-15 Read more