司式者が、今度は私を見た。 私の番だ。 胸の奥に、たくさんの言葉が詰まっている。用意してきた誓いの文はある。昨日の夜、詩織姉に誤字を確認され、「長い。三割削れ」と言われたものだ。 けれど、いま口を開いたら、その文面通りには出てこない気がした。 私は一度、息を吸った。「湊」 声が、思ったよりもまっすぐ出た。「私、ずっと、誰かの幸せを整える仕事をしてきました。打ち合わせ表を作って、予算を見て、親族の顔色を読んで、花の向きを直して。小さなことを積み重ねて、誰かの一日を支えるのが好きでした」 手の中のブーケが、かすかに揺れる。「でも、自分の幸せだけは、うまく扱えませんでした。傷ついた時、見返したくて、意地を張って、復讐のために湊の腕を掴みました。最初は、湊のことを道具にしようとしたんです」 会場は静かだった。 誰も笑わない。誰も軽蔑しない。 過去を隠すためではなく、過去から逃げないために、私は言葉を続ける。「それなのに、湊は私を道具のままにはしませんでした。怒って、守って、間違えて、謝って、何度も私の前に立ってくれました。大切にされるたびに、正直、怖くもなりました。こんな幸せ、私に似合うのかなって」 湊の目が、苦しそうに揺れる。 だから、私は少し笑った。「でも、もう疑いません」 言い切る。 その瞬間、胸の奥に残っていた小さな影が、すっと薄くなった。「私は、九龍家に飾ってもらうためにここにいるんじゃありません。湊と一緒に、新しい家族を作るためにここにいます。湊がCEOでなくても、九龍の当主でなくても、たとえ不器用で、過保護で、たまに話が重くても」 どこかで征司さんが吹き出し、すぐに誰かに肘で叩かれた音がした。 湊の口元も、少しだけ緩む。「私は、湊を選びます」 今度は笑わずに言った。「湊が守ろうとしてくれるものを、私も一緒に守ります。湊が迷ったら、たぶん叱ります。疲れているのに平気な顔をしたら、ご飯を食べさせます。一人で全部背負おうとしたら、書類ごと取り上げます」「それは困る
Last Updated : 2026-07-23 Read more