Semua Bab 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Bab 321 - Bab 330

337 Bab

321話

誠司と胡桃の父親が医者の説明を聞きに病室を離れた。 胡桃は大事を取り、1日入院する事になったのだ。 今病室には胡桃と母親の桔梗、2人だけ。 桔梗は外に誰もいない事を確認してから胡桃に話しかけた。 「──で、胡桃?気を失ったのは演技でしょう?何があったの?」 桔梗の言葉に、胡桃は自分の爪を見ながらなんて事ないように答える。 「誠司が浮気してるの。秘書と」 「何ですって?胡桃がいるのに、誠司くんは他の女に目移りしているの?」 「うん、そう」 「しかも秘書って、確か胡桃の大学の先輩でしょう?お父さんに言って始末しようか?」 「ううん、大丈夫よ。さっきの誠司の言葉を聞いたでしょ?多分先輩を遠ざけるから、今のところは大丈夫よ」 ふん、と鼻で笑った胡桃に桔梗は「それならいいけど」と頷く。 「結局、誠司は誘惑に抗えない男なのよ。こっちで何とかコントロールするから大丈夫。目に余るような事をしたら助けて」 「ええ、分かったわ」 「お父さんには誠司の浮気の事は伝えないで」 「──そうね、浮気関係の事はあの人、敏感になるから」 「でしょう?それで下手に過去の事まで調べ始めたら大変でしょう?気付かれちゃったら不味いもの」 胡桃の言葉に、桔梗が強く反応する。 「──胡桃、こんな所でそんな話はやめて……!」 「分かったわよ、ごめんなさいお母さん。そんなに興奮しないで」 ひょい、と肩を竦めて謝る胡桃。 話を変えるように、胡桃は口を開いた。 「それよりお母さん。もみじのあの記事を見た?」 「──もみじ?あの女に何かあったの?」 桔梗はもみじに関わるあのニュースの事を知らないようだった。 そんな桔梗に、胡桃は口を尖らせて答える。 「ええ、ちょっと失敗しちゃって。もみじを醜聞まみれにしてやろうと思ったんだけど……」 「やだ、胡桃。また記者か何かに依頼したの?」 「うん。でももみじに関しては嘘を書かせていないわ。だけど、もみじに批判を集中させたかったんだけど……」 胡桃はスマホを取り出すと、例のネットニュースを表示して桔梗に見せた。 「TKの社長──あのイケメンの髙野辺さんが、もみじとの交際を発表したのよ。まさかこんな事になるなんて思わないじゃない?」 「──何ですって?あの大企業の社長ともみじが!?」 桔梗は声を荒らげると、胡桃のス
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-12
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322話

◇ 場所は変わり、もみじ達が泊まっているホテル。 もみじは、自分の部屋に戻っていた。 ホテルの部屋で1人、椅子に座り呆然としていた。 「恋人……恋人……?」 髙野辺は今、関係各所に連絡を取ったりとバタバタと忙しなく動いている。 そのため、もみじの部屋には今誰もおらず、しんと静まり返っている。 そんな静かな空間で過ごしていると、先程髙野辺から言われた言葉を思い出してしまい、もみじはその度に顔を真っ赤に染めたり、意味もなくうろうろと部屋の中を歩き回ったり、ぶんぶんと頭を横に振ったり、と自分でも訳が分からない行動をしてしまっていた。 だが、それもそのはず。 髙野辺から提案された言葉に、もみじは今になって羞恥やら本当にこれで良かったのか、などと言った気持ちで頭の中が混乱していた。 髙野辺から提案された言葉──。 それは、もみじに「恋人の振りをして欲しい」と言う言葉だった。 髙野辺には本当に付き合っている人も、婚約者もいない。 それなのに、あんな記事を書かれてしまい、ほとほと困っているらしかった。 会社にも影響が出るし、もしかしたら今後プライベートの時間もカメラに追いかけ回される可能性がある。 それなら、いっその事。 もみじが髙野辺の恋人と言う事にしてくれないか、と言う事だった。 振りだけで良い。 もみじが髙野辺の恋人だと言うなら、昨夜髙野辺の部屋にもみじが泊まった事も変ではない。 一緒に行動する事が多いのも、恋人だったら変ではない。 それに、もみじは今、TK株式会社のデザイナーとして働いている。 縁故採用だ、贔屓だ、と多少は言われるだろうが、もみじの実力は本物だ。 最初は多少言われる可能性があるが、すぐにそんな噂も消えてなくなるだろう、とは髙野辺の言葉だ。 確かに、営業会議で話をした営業社員の皆は、みな、もみじの実力を認めてくれていた。 もみじがデザインした作品を殆どの社員は知っていてくれていたし、皆熱く感想を語ってくれたのだ。 それがどれだけ嬉しかったか。 その時は髙野辺の恋人、と言う肩書きが無かったからこそ、あの時の言葉はどれも本物だ。 今後はお世辞が増えるかもしれないが、分かってくれる人に分かってもらえれば十分だと、もみじは考えていた。 「だけど……それより、私が髙野辺さんの恋人の振りなんて……」 そんな事
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-13
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323話

もみじがうんうんと部屋で考え事をしていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。 「──っ!だ、誰?髙野辺さん……?」 ぱっと顔を上げたもみじは、不安に思いつつ扉の方へ向かう。 そして、来客が誰かを確認したもみじは、急いでドアを開けた。 「──髙野辺さ」 「もみじさん、誰かが俺を尾行しているみたいです。少し触れても?」 「えっ、あっ、はい……」 もみじが髙野辺の名前を呼ぶなり、髙野辺はもみじの耳元でぼそりと呟く。 誰かが、髙野辺を尾行している。 十中八九、記者だろう。 廊下の隅に隠れているのかもしれない。 もみじがこくり、と頷いたのを見て、髙野辺はごく自然に、恋人に触れるようにもみじの頬に手を添えた。 もみじがえっ、と思う間もなく、髙野辺は添えた手のひらでもみじの頬を優しく撫でると、そのままもみじの肩を軽く抱き寄せた。 急な接近と、接触にもみじの心臓は大きく鳴動した。 バクバク、と忙しなく動く心臓。 カアッと赤くなってしまう頬に、もみじはあわあわとどうしたらいいのか、と慌てふためいた。 そんなもみじの慌てた様子に、髙野辺はくすりと小さく笑い声を漏らすと、そのままもみじの背に手のひらを添えて中に入るよう促した。 「すみません、十分です。中に入りましょう」 「わ、分かりました……っ」 こくこくと頷くもみじの背を促し、部屋に入る寸前。 髙野辺は人の気配を感じる方向に、鋭い視線を向けた。 廊下の一角。 観葉植物が視界を遮り、死角になっている場所。 恐らく、そこに誰かが潜んでいる。 髙野辺は部屋の扉を閉めるまで、その方向を鋭く睨みつけ続けた。 パタン、と扉が閉まった瞬間、もみじの背中から髙野辺の手のひらが離れる。 「すみません、勝手に触ってしまい……」 申し訳なさそうに眉を下げる髙野辺に、もみじは慌てて首を横に振って答えた。 「だ、大丈夫です!その……っ、恋人の振り、ですから……!必要な事です!」 「……ありがとうございます」 無理して笑っているような雰囲気では無い事に、髙野辺はほっと胸を撫で下ろす。 少しでももみじが不快感を顕にすれば、髙野辺は不必要な接触は二度としない、と決めていた。 だが、髙野辺が触れてももみじは可愛らしく頬を染めるだけで、嫌がっているような素振りは見せない。 ただ、羞恥が強くどうしたらい
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-13
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324話

分かりました、と答えたもみじは誠司からの電話に出る。 スピーカーに設定し、もみじが「もしもし?」と声を発するなり、スピーカーから誠司の大きな声が響いた。 〈もみじ!お前、一体どう言うつもりだ!〉 誠司の大きな声が、キーンと耳に響く。 もみじは眉を顰め、自分の耳を手のひらで覆うと迷惑そうな態度を隠す事なく、誠司の言葉に答えた。 「どう言うつもりって、一体なんの事?急に電話をして来て、随分不躾ね。それに、私と新島社長はもう赤の他人だわ。大した用もないのに、連絡してこないで」 冷たい声できっぱりと言い放つもみじに、スマホの向こう側にいる誠司が怯んだ気配がする。 もみじが通話を切ろうとした事が向こうにも伝わったのだろう。 誠司は慌てたように言葉を続けた。 〈用があるから電話したんだ!もみじお前、一体どう言うつもりだ!?髙野辺と付き合っているなど……っ、そんな嘘をついて何がしたい!?〉 「──嘘ですって?」 〈ああ、そうだ。髙野辺がお前みたいな何の取り柄も無い女を選ぶはずが無いだろう!?少しばかりデザインが出来るからと言って、周囲に持て囃されて勘違いをしない方がいい、お前には優れたデザインセンスも何もないんだ、この間入賞したデザインも、胡桃のデザインを盗んだんだろう?〉 「──は」 〈人のデザインを盗み続ける事は不可能だ。今は一時チヤホヤされて気分が良いのだろうが、周囲はお前が才能が無い事にすぐに気づくぞ。そうなって後ろ指を刺される惨めな生活になる前に、俺の家に戻ってこい〉 もみじが呆れて何も言葉を返していないのをいい事に、誠司はつらつらと言葉を続ける。 得意になって話し続ける誠司に、もみじは開いた口が塞がらなかった。 〈今なら許してやる。離婚したとは言え、お前と俺の仲だ。胡桃がこれから大変な時期になるだろう?家事手伝いの家政婦として雇ってやる。デザインを学びたいと言うなら、胡桃に教えてもらえばいいだろう。出産前の胡桃を支え、出産後の胡桃を支えろ。子育てもお前が殆ど手伝え、そうすれば、お前1人くらい俺が養ってやる〉 どうだ?別れた妻にも随分寛容だろう?と得意気にふんぞり返っている誠司が、容易に想像出来る。 もみじが呆れ果て、言葉を失っていると。 もみじの隣にいた髙野辺がぐっと身を乗り出し、スマホに向かって口を開いた。 「結構です、新
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-14
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325話

◇ 一方その頃、誠司は。 ぶつりと切られた通話に、怒りで震えていた。 「──なっ、何なんだあいつは!偉そうに……!それに、もみじももみじだ……!あんな男と付き合うなんて、いや、もみじは俺の事が好きなんだ……!俺に嫉妬してもらいたいがためにあんな嘘を……!」 誠司はもみじと髙野辺の言葉を何一つ信じていなかった。 ただ、自分を嫉妬させるために髙野辺に惚れている振りをしている。 自分の気持ちを取り戻そうと躍起になって、髙野辺なんかと付き合ったと思い込もうとしていた。 「そうだ……もみじは、俺の事が好きなんだ……!今も俺の事が好きで……、胡桃が俺の子供を妊娠してしまったから嫉妬してるだけで、離婚だってもみじの本心じゃない……!」 ぶつぶつと呟き、誠司ははっとする。 「──もしや、もみじは髙野辺に騙されているんじゃ……本当は髙野辺と付き合うつもりはなかったのに、やつの口車に乗り、こんな事になってしまったのかもしれないな……」 誠司は現実から目を背け、そう自分を納得させる。 「そうだ……そうに違いない……。もみじはもしかしたら嫌々奴に付き合っているのかもしれない……もみじは俺の事が好きなんだ、愛してると言ってたんだ……俺から離れられる訳がない……」 誠司は、自分がもみじにプロポーズをした時の事を思い出す。 何度も好きだと伝え、誠司の誠実さ、想いにようやくもみじも頷いてくれた。 付き合っている時間は2人にとってとても幸せな時間だった。 いつももみじは嬉しそうに笑ってくれていて。 誠司ももみじが笑ってくれるのが嬉しかった。 だが、もみじは大学の男達からとても人気だった。 どんどん可愛くだけど美しくなっていくもみじ。このままだともみじが誰かに取られてしまう。 焦った誠司は、大学在学中にプロポーズをして、もみじが頷いてくれたのを見て結婚したのだ。 もみじが大学を中退しないと、もみじの実家は結婚を許してくれなかった。 だから誠司はもみじに頼み込み、大学を中退してもらい、結婚したのだ。 結婚して、もみじはもう自分の物だと言う安心感が出て、それから誠司はもみじをおざなりに扱うようになった。 あれだけもみじの事が好きだったのに、段々とその熱は冷めていった。 あれだけもみじに熱を上げていた誠司は、結婚してから1年と経たないうちに、その熱が冷めて
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-15
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326話

◇ それから、数日。 営業会議の残りの日数は驚くほど何も起きず、穏やかに時間が過ぎた。 あれ以降、もみじと髙野辺の記事も出る事はなかった。 だが、それもそうだ。 髙野辺があっさりともみじとの交際を認めたのだ。 付き合っている男女が、どちらかの部屋に泊まる事は何ら不思議では無い。 むしろ、付き合っている2人の事をアレコレ書く方が、不躾とも言える。 それに、髙野辺はTK株式会社の社長だ。 これ以上侮辱するような記事を出してしまえば、髙野辺がどう出るか分からない。 大企業の社長に、自ら進んで喧嘩を売りたいような人間はいないだろう。 記者1人の仕事など、簡単に潰せてしまうのだから。 そして、あれ以降。 もみじや髙野辺の近くで徳居の気配を感じる事もなかった。 髙野辺の指示で、蒔田や田島が見えない所で色々と動いてくれていたのだが、それはもみじには分からない。 営業会議に参加して、少し仲良くなった女性営業社員から、髙野辺との関係を嬉々として質問されたが、それも嫌な話しかけられ方ではなく、髙野辺との付き合いを質問される程度。 もみじはそれに当たり障りの無い事を答えていた。 営業会議の期間が終了し、現在はもう、髙野辺の家がある最寄り駅まで戻ってきていた。 「──もみじさん、降りましょうか」 帰りの新幹線で隣に座っていた髙野辺が、もみじの手荷物を持って一緒に降りる。 もみじは髙野辺にお礼を言い、荷物を受け取ろうと手を伸ばしたが、髙野辺にするりと躱されてしまう。 「どうせ帰る家は一緒ですから」 「でも、行きも持ってもらったのに……!」 「ほら、もみじさんは俺の恋人でしょう?恋人の荷物も持ってあげない薄情な男にさせないでください」 悪戯っぽく笑い、あまつさえパチリとウィンクをする髙野辺に、もみじもこれ以上は言えず、ついつい笑ってしまう。 「ふふっ、じゃあ……お願いしてもいいですか?」 「ええ、もちろん。任せてください」 もみじと髙野辺、2人は笑い合いながら歩き出す。 そんな2人の後ろ姿を、徳居社員は恨めしそうにじいっと見つめていた。 去って行く背をじとっとした目で見つめながら、髙野辺を真っ直ぐ目に映し、ついていく。 「聖さん……、聖さん。どうしてそんな女に笑いかけるの?私と一緒に過ごした時間は、何だったの……」 あの食堂で。
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-15
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327話

「──いやっ、誰!?離してください……っ、ひ、聖さん……っ、聖さん……!」 徳居は、誠司に掴まれた腕をぶんぶんと振り、大声を出す。 人の多来の多い駅。そんな所で騒いでいれば、注目の的だ。 女性の腕を掴んでいる男──。 そんな光景に、駅を行き交う人は訝しげに見、サラリーマン風の男が数人こちらに寄って来るのが見えた誠司は、慌てて口を開いた。 「髙野辺の事を見ていただろう!?髙野辺の隣にいた女性は、俺の妻だ……!」 「──は?」 「あの女性は、俺の妻だと言っている。あの二人について少し話したい」 もみじの事を「妻」だと言う誠司に、徳居は驚き目を見開く。 正しくは「元妻」なのだが、髙野辺以外に興味がない徳居は、髙野辺以外の噂には無頓着だった。 そのため、目の前にいる男──新島 誠司が、以前世間を騒がせた「不倫男」だと言う事も気付いていなかった。 「あの女が、あなたの妻……?」 騒ぐのをやめ、大人しくなった徳居に誠司はほっとして腕を離す。 ようやく話を聞く態度になったと判断した誠司は、周囲に向かって騒がせて申し訳ない、と言うように頭を下げた。 そして徳居に体ごと向き直ると、力強く頷いた。 「ああ、そうだ。髙野辺の隣にいるのは俺の妻だ。……妻を取り戻したい。家に戻ってきて欲しいんだ」 誠司の言葉を聞いた徳居は、自分の親指を噛み、ぶつぶつと呟く。 「──やっぱりね……!あの女、急に聖さんに近付いて……怪しいとずっと思っていたの……!聖さんは騙されているんだわ、ええ、そうよ。聖さんは優しい人だから……!害虫のようなあの女を聖さんから引き離さなくちゃ……!」 ぶつぶつと呟く様子は、どこか異常だ。 誠司は徳居の様子に若干引きながら、話しかけた。 「お、おいあんた……。大丈夫か?……おい、詳しい話をどこかで──」 「こうしてはいられないわ。聖さんを助けなくちゃ……!」 「──あっ、おい!」 徳居は自分の中で何かを決意すると、最早誠司など目にもとめていない様子でその場から駆け出した。 走り去ってしまう徳居をポカンと見つめていた誠司は、上手くいかなかった事に舌を打つ。 「くそ、失敗か。あの女と協力してもみじと髙野辺を離れさせようとしたんだが……」 どこかに行ってしまった徳居。 徳居が去って行った方向を見つめていた誠司は、寒気のような物
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-16
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328話

翌日。 もみじと髙野辺は、普段通り出社した。 既に2人が付き合っている噂は社員の間に知れ渡っているのだろう。 出社するなり、沢山の社員達から挨拶と共に生暖かい視線を感じていた。 もみじはそんな視線にいたたまれなくなってしまう。 「──うぅ、何だか気まずいです」 そんな事を呟くもみじに、髙野辺は眉を下げつつ笑う。 「気まずそうにしないでください、もみじさん。何なら、手でも繋ぎますか?」 くつり、と笑いながら髙野辺から手を差し出される。 これは揶揄っているな、と察したもみじはじとっとした目で髙野辺を見て唇を尖らせつつ答えた。 「髙野辺さん、面白がっているでしょう?」 「ふっ、ふふ、すみません。だけど俺たちは普段通りに過ごしましょう」 「──そうですね」 困ったように笑うもみじと、楽しげに笑う髙野辺。 2人の雰囲気は気心知れた関係とでも言うように、とても馴染んでいる。 もみじがこの会社に入ってから、髙野辺の笑みが増えた。 それは、社員達も気付いていた。 もみじと髙野辺が社長室直通のエレベーターに乗り込み、姿が見えなくなる。 そんな2人を見ていたTKの社員達は、楽しげに話す。 「社長、玖渡川さんが来てから笑顔が増えたよな」 「ああ。今までよりも確実に増えてる」 「今までは少し近寄り難い雰囲気だったけど、今は社長の雰囲気が柔らかくて、話しかけやすくなったよな」 「そうそう!最近では、玖渡川さんと一緒に昼飯を社員食堂で食べる姿を見るぞ。社員と同じ場所に社長がいるっての、最初は緊張したけど……」 「ああ、あれだろ?社長は玖渡川さんしか見えていないから……!」 「はははっ、そうだな。その通りだ。俺たちなんて目に入っていないよ」 和やかに話しながらエレベーターに吸い込まれて行く社員達。 そんな彼らを、背後から睨みつける女がいた。 徳居はそんな彼らを胸中で呪いつつ、次のエレベーターで自分の部署があるフロアに向かう。 (どうして聖さんとあの女が好意的に言われているの?聖さんはあの女に騙されているのよ?あの女は、既婚者!夫がいるのに、聖さんに色目を使っているのよ……!なんてアバズレなの!) 徳居はぎゅっと拳を握りしめる。 (私が聖さんをアバズレの魔の手から守らないと……!あんなアバズレデザイナーは聖さんの会社には相応しくない…
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-16
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329話

「──これを……、保存して……」 徳居はブツブツと呟きながらマウスをカチカチ動かす徳居に、それまで話しかけていた神咲はため息を1つ零し、真向かいにある自分のデスクに戻った。 神咲は同期入社だし、と徳居と仲良くなりたかったのだが徳居はどうやらそうではないらしい。 頬杖をつきながら、何やら真剣な顔でパソコンに向き合う徳居をちらりと見た。 (……何だか徳居さん、この会社で働きたくて働くって感じじゃないんだよな……この凄いデザイン会社で働きたい、勉強したいって思ってるのは俺だけなのかな……) 少し寂しいな、と神咲は徳居から視線を外して自分のパソコンに向き直る。 (それに、徳居さん……どうしてあんなサーバーにアクセスしたんだ?俺らがやる仕事と何も関係ないのに……) 神崎は、徳居がアクセスしていたサーバーを見ていた。 「社外秘」と書かれたフォルダにログインする徳居の意図が分からず首を捻っていたのだが、徳居の狙いはその後すぐに分かる事になった。 その日の午後──。 昼休憩の時間になり、神崎はぐっと伸びをする。 真向かいにいる徳居に声をかけようか、と思ったが徳居はいつも昼休憩になるとすぐにどこかに行ってしまう。 それどころか、ここ数日間、徳居は会社を休んでいたのだ。 そのため、昼飯を一緒に摂った事は無い。 今日こそ──、とは思ったが、どうせ今日も徳居はすぐにどこかに行ってしまうだろう。 そう考えた神咲は、そのまま社員食堂に向かおうかと席を立った。 「おっ、神咲、社員食堂か?一緒に行こうか」 「──はい!ぜひ!」 先輩社員が神咲に声をかけてくれる。 神咲はぱっと嬉しそうに表情を輝かせ、頷いた。 先輩と連れ立って歩いていると、今日は珍しく席に残っている徳居の姿を見て驚いた。 (──あれ、徳居さん珍しいな。昼飯誘うか……?) そう考えた神咲が、話しながら足を進める先輩社員に声をかけようと口を開きかけた。 その時──。 誰かが驚いたような声を上げた。 「──マジかよ!うちが出す予定だった新商品の情報、他に漏れてる……!他社が先に出しちまうぞ、これ!」 「何だって!?」 神咲の隣にいた先輩社員が悲鳴を上げるような声を上げる。 そして、神咲に「悪い、昼はまた今度!」とだけ簡潔に告げると、先程言葉を発した社員に駆け寄って行く。 その社
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-17
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330話

「──?」 神咲は訝しむように眉を寄せた。 徳居は視線を感じたのだろう。 ふ、と顔を上げると神咲とバチリ、と視線が合った。 その瞬間、徳居は硬い表情に変わり、逃げるようにさっと目を逸らした。 そして小さな声で「お昼行ってきます」と呟くとそそくさとその場に立ち上がり、フロアの出口に向かってしまった。 「──徳居さん、何で笑っていたんだ?」 何だか嫌な予感がもやもやと胸に込み上げる。 いや、まさか。 きっと勘違いだ。 そう思い、神咲は頭を振ってその考えを振り払う。 「──神咲!悪いが昼飯はまた今度……!」 「……っ、わ、分かりました……!すみません、お昼行ってきます……!」 先輩社員にそう声をかけられた神咲は、ぱっと顔を上げて軽く頭を下げる。 お昼に向かうため、フロアを出て行く神咲の背中に、忙しそうな先輩社員の「行ってらっしゃい!」という声がかかった──。 ◇ 「社長……!」 社長室に田島が飛び込んで来る。 田島の顔色は真っ青だ。 その様子から、何か起きた事は明白だ。 髙野辺は自分のパソコンから顔を上げ、慌てた様子の田島に落ち着くように声をかけた。 「──分かっている、うちの新商品の件だろう。まずは落ち着いて何が起きているのか話してくれ」 「──は、はいっ!」 髙野辺も今正に、田島が入ってくる瞬間までパソコンで他社ホームページで発表されていた新商品のラインナップを見ていた。 TK株式会社ととても酷似した商品ラインナップ。 そして、デザインだ。 明らかにTKの情報が漏れているのが、髙野辺にも分かった。 髙野辺の落ち着き払った様子に、田島も気持ちを落ち着かせられたのだろう。 田島は深呼吸をして息を整えると、手帳を手に髙野辺に報告をした。 「──社長もご存知の通り、弊社のデザインと商品情報が他社に流出したようです。そのため、弊社の商品ラインナップと酷似した商品が、ライバル会社から新発売する、と発表がありました」 「……この発表はいつ頃に?」 「午前11時頃に新商品の発表がございました」 「うちの商品とデザインが酷似しているが、ライバル会社のデザイナーは誰だ?発表されているのか?」 「いえ、今のところデザイナーは未発表です」 「発売時期は?」 「──ふた月頃を予定しているようです」 「我が社と全く一緒だ
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