Alle Kapitel von 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Kapitel 311 – Kapitel 320

337 Kapitel

311話

「──ああ、もう……」 もみじは小さく溜息を吐き出し、自分の額を押さえる。 昨夜、もみじが髙野辺の部屋に入って朝まで出て来なかった、と言う記事はとても下品な言葉達で記事が書かれていた。 ただ酔い潰れて髙野辺の部屋で眠ってしまっただけだが、誰がそれを信じてくれるだろう。 結果として、もみじは髙野辺の部屋に一晩泊まってしまっているのは事実だ。 未婚の男女が、夜に1つの部屋に入って朝まで出てこなかった。 その文章だけ見ると、何かあったのでは。 男女の仲になっているのでは、と邪推してしまうのが人だ。 今まで顔を晒していなかった髙野辺が、記事で写真を載せられてしまった。 沢山の人に、髙野辺の顔が分かってしまったのだ。 それに、髙野辺が【恋人】が居るにも関わらず浮気をしている。 そう考える人が多く居るだろう。 実際の事なんてどうでもいいと考える悪い人だっている。 ライバル会社などは、この記事が出てこれ幸いと悪評を広めるかもしれないし、TK株式会社の株価にだって、会社のイメージにだって影響が出るかもしれない。 「──いえ、イメージダウンは確実だわ……。せっかく新商品を発売した直後なのに……」 新商品の販路を、新商品の営業を頑張ってくれた営業社員達に申し訳ない。 営業会議で。交流会で、もみじは沢山の営業社員と話をしたのだ。 みんな、自分の仕事に誇りを持っている。 営業社員が苦労して開拓した販路を、こんな風に悪意ある記事で無駄にしてしまったら。 「──胸が痛むわ」 もみじは自分の心臓に手を当て、ぐっと悔しげに唇を噛む。 「私には、何も出来ないのが悔しい……」 髙野辺は、きっと忙しく動いているのだろう。 それなのに自分は部屋でじっと黙って待っている事しか出来ない。 それがもみじには、とても悔しかった。 「ひとまず、今ネット上に出ている記事を全て確認しておこう……もしかしたら、会社で何か聞かれるかもしれないし……」 そう考えたもみじは、自分のスマホに視線を落としネットに上げられている記事を片っ端から見て行く事にした。 どれもこれも、浮気だの二股だの、下品な事が書かれている。 それほど、髙野辺の【恋人】は記事に大きく出ていた。 「……秘密の恋人?2人は、社内では関係を秘密にしていた……。逢瀬はいつも、あるお店で。……凄く具体的ね
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-06
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312話

「──もしもし?」 〈あっ、お姉ちゃん?ふふっ、何だか大変な騒ぎになっているみたいねぇ?〉 スマホのスピーカー越しに、胡桃の甲高く耳障りな笑い声が響く。 心配しているような声色ではなく、まるでもみじを小馬鹿にして楽しんでいるような不快な声色。 もみじは思わずぐっと眉間に皺を寄せた。 「……何の用?用が無いなら切るわ」 揶揄って遊びたいだけなのだろう。 それを察したもみじは、素っ気なく胡桃に返すと通話を切ろうとする。 だが、スマホ越しの胡桃は焦った様子もなく「いいの?」と楽しそうに笑った。 〈この記事を書いた記者、私が知っている人だけど……。この記事に困ってるんじゃない?私が助けてあげようか?〉 くすくす、と愉しげに笑う胡桃の声がもみじの耳に届く。 (胡桃が私を助ける……?一体何のために?何が目的よ……) もみじは胡桃の言葉を訝しげる。 自分を助ける、なんて胡桃には何らかの目的──旨みがなければ有り得ない。 「……胡桃の助けなんていらないわ。こんな記事、全部嘘だもの。こっちで対処出来る」 〈そんな強がらなくていいのに。お姉ちゃんには記者の知り合いも、頼れる人も誰もいないでしょ?それに、この記事が全部嘘だって何で分かるの?髙野辺さんに本当に秘密の恋人がいたらどうするの?〉 「……髙野辺さんにお付き合いしている人はいないわ。本人からそう聞いているもの」 きっぱりと告げるもみじ。 もみじの答えを予想していたかのように胡桃は笑った。 〈ふっ、あははっ!お姉ちゃんって本当に馬鹿!そうやって誠司に騙されてきたじゃない!お姉ちゃん、誠司や私に騙されていた事を忘れちゃってるの?つい最近の事なのに!〉 「──っ」 もみじが言葉に詰まった所で、胡桃は一気に畳み掛けるようにまくし立てる。 〈髙野辺さんがお姉ちゃんに恋人は居ないって言ったの?でも、それって本当?誠司だってずっとお姉ちゃんを騙してたじゃない。相手の言葉を鵜呑みにして大丈夫なの?〉 「──〜っ、騙してたあなた達が何を言うの!」 〈ふっ、ふふっ、そうよ、騙していたからこそ分かるのよ。お姉ちゃんって人の話を信じやすいから。それに、お姉ちゃんって1度人を信用したらその人に甘いじゃない?言われた事をすぐに鵜呑みにして信じちゃう〉 「髙野辺さんを、あなた達と一緒にしないで!」 〈ほら
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-07
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313話

「もみじさん、すみません1人にして!」 バタバタ、と慌てたような足音と髙野辺の声が聞こえてくる。 部屋に戻ってきた髙野辺は、ソファーに座り呆然としているもみじを見て、眉を寄せる。 ──どうしたのだろうか。 いつもだったら、もみじは髙野辺の声に反応して言葉を返してくれる。 それなのに、今は呆然とスマホの画面を見つめている。 「──もみじ、さん?」 「──あっ、髙野辺さん、お帰りなさい……!」 髙野辺がもみじの近くまで行き、心配そうに声をかける。 そこでようやくもみじは髙野辺の声に反応し、ぱっと顔を上げてへらり、と笑った。 明らかに、もみじの様子がおかしい。 その事に気がついた髙野辺は、原因は自分ともみじの記事の事だろう、と思いもみじの隣に腰を下ろした。 きっと、こんな下品な記事に巻き込まれて、辟易しているのだろう。 こんな事態を引き起こした自分の不甲斐なさに、髙野辺は申し訳なくなった。 「すみません、もみじさん。こんな事に巻き込んで……。もみじさんが呆れるのも、俺に怒りを覚えるのも、当然です……。少しだけ待っていてください。今、広報に対応をさせています。すぐにこの記事がでたらめだと、社から発表します」 「た、髙野辺さ──」 「それに、もみじさんの写真についても。もみじさんには全てモザイクがかけられていたけど、社員には俺の隣にいるのはもみじさんだと分かってしまっている。今後、社員から変な言葉を掛けられたり、迷惑を被ったらすぐに俺に言ってください。絶対に守るので──」 「た、髙野辺さん……!待って、待ってください……!」 もみじは、髙野辺の言葉を一旦遮る。 先程から髙野辺は、以前と変わらない態度で自分の事ばかりを心配してくれている。 (──お相手は、大丈夫、なの……?た、髙野辺さんには、本当に会っている女性がいる、のよね……?) もみじは、胡桃に言われた言葉を思い出す。 何故かもみじの胸がズキ、と痛んだが、それには気づかない振りをしてもみじは髙野辺と顔を合わせると言葉を続けた。 「私の事より、その……髙野辺さんはお相手の方を気にしてあげてください」 「──え?」 「お相手の女性、いらっしゃるんですよね……?一緒にお店でお食事をされている、と……」 もみじは、気まずげに髙野辺から顔を逸らす。 それ以上は言葉に出来ず、
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-07
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314話

髙野辺の必死な、焦ったような声音。 そして腕を掴まれたもみじは、進む事が出来ず困ったように眉を下げて振り向いた。 すると、目の前にいる髙野辺はどこか傷付いたような顔をしていて。 もみじはそんな表情を髙野辺にさせてしまった事が自分のせいだと分かり、胸が苦しくなった。 「違うんです、もみじさん。あの記事は本当にでたらめで……。俺にはお付き合いしている女性はいません……本当にいないんです」 「ほ、本当に……?」 髙野辺の真摯な態度に、もみじはその言葉を信じようとした。 だが、先程の胡桃の言葉がぶわり、と頭に蘇る。 〈髙野辺ほどの人物、秘密の恋人や婚約者がいてもおかしくない──〉 「──……っ」 「もみじさん?」 ほっとしたように表情を和らげたもみじが、次の瞬間に表情を強ばらせる。 何かがもみじの中で引っかかっている。 そう感じ取った髙野辺は、掴んでいたもみじの腕から自分の手のひらを移動させ、もみじの手を優しく両手で包み込んだ。 「俺がいない間に、何かありましたか?……もしかして、誰かが部屋に訪ねて来ましたか?その人物に何か言われた……?」 優しく問いかけてくれる髙野辺。 もみじはゆらゆらと揺れる瞳で髙野辺を見上げ、迷いつつ口を開いた。 「……髙野辺さん、には……本当に秘密の恋人がいる、と……。ご飯屋さんで、会って、一緒に食事をする仲の女性がいるって……。それに、髙野辺さんほどの人なら、こ、婚約者だって……」 気まずそうに髙野辺から視線を逸らし、ごにょごにょと答えるもみじ。 その表情はどこか怒っているような、嫉妬をしているような感情がちらりと見え隠れしていて。 髙野辺は、もみじのその態度に目を見開いた。 (──っ、不味いっ) もみじが、嫉妬してくれているかもしれない。 それを理解した瞬間、髙野辺は自分の口元が緩んでしまいそうになるのを慌てて手のひらで覆い、隠す。 自分の手を包み込んでいた髙野辺の手が勢い良く離れてしまった事に、もみじははっとした。 無関係な自分がこんな事を言ってしまうなんて──。 髙野辺の気分を害したのでは、ともみじは不安になった。 だが、もみじが向いた先。 手で口元を覆った髙野辺の耳が、若干赤くなっているのを見て、もみじは自分の目を見開いた。 「──ぇ」 「──もみじさん」 もみじが小さく声
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-08
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315話

◇ その日、朝から田島は忙しかった。 朝起きて、日課のネットニュースをチェックする。 そうしたら、何と自分の会社、しかも自分の直属の上司である社長がネットニュースで炎上しているではないか。 それを知った瞬間、同じ秘書の蒔田から電話が入った。 蒔田の電話も、田島が見たネットニュースの件で。 田島は急いで簡単に身支度を済ませ、田島は蒔田の部屋にすっ飛んで行った。 「まさか、髙野辺社長がこんな事に巻き込まれるなんて……」 蒔田は額に手をやり、ため息混じりにぼやく。 そんな姿を見る事が珍しく、田島がまじまじと見つめていると、顔を上げた蒔田が鋭い視線で田島を射抜いた。 「……ぼうっとしてないで、社長のこの記事……誰が書いたのか、情報提供者が誰なのか、さっさと調べるぞ。うちの会社に喧嘩を売るなんて、大した度胸だ」 「りょ、了解しました……っ!」 髙野辺に接する時と違い、蒔田の口調も態度も荒い。 田島はひゅっと息を呑み、背筋をしゃんと伸ばして急いでスマホを確認した。 そして、蒔田指示の元、会社の広報と連携を取ったり、発信元が誰なのか、情報提供者が誰なのかを調査していく。 その途中、髙野辺の訪問があったり、話を聞いたりして情報を纏めていく。 髙野辺が再び部屋を出て行って、田島と蒔田は調査を続けていた。 その調査過程で、ある事実を知り、蒔田も田島も、犯人──情報提供者の凡その当たりはついた。 「……徳居社員が出社していないそうだな」 「ええ……。今回の営業会議に参加している社員に聞き込みをした所、徳居社員らしき女性を見た、との声がありました」 「ああ。それは俺も聞いた。十中八九、徳居社員だろう。あの社員、入社してから社長の傍をうろうろとしていたからな。元々、社長目当てでうちに入ったのかもしれない」 蒔田の言葉に、田島はちらりと彼を見つつ、気になっていた事を聞いた。 「……その、髙野辺社長はそのあたりガードが硬いと思うんですが……今回は見抜けなかったんですか?」 田島の問いに、蒔田は苦虫を噛み潰したような表情をした。 そして、疲れたように答える。 「……社長は今、浮かれていらっしゃるだろう……」 「え……。──ああ!」 髙野辺が浮かれている。 そんな事あるだろうか、そう考えた田島だったが、そうだった、と思い至る。 ここ最近の
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-08
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316話

◇ 「──社長、失礼します!」 コンコン、バン! 田島は外で扉をノックし、一声かけ勢い良く部屋の扉を開ける。 元々、髙野辺からは部屋のカードキーを預かっていた。 今回の件について、進捗があれば部屋に来てくれ、と言われ予備のカードキーを預かっていたのだ。 だから田島は躊躇いなく扉を開けた。 髙野辺の部屋にもみじが居る事は分かっていたが、恐らくもみじもこの記事の件で髙野辺と話し合いをしているだろう。 そう思っていたのだ。 だから、田島はまさか自分の上司──髙野辺と、もみじが良い雰囲気になっているなんて微塵も思わなかったのだ。 「──田島秘書?」 「──……へ、あ……、失礼しましたっ!」 髙野辺の呆気に取られた表情。 だが、髙野辺の手はしっかりともみじの手を握っている。 もみじと髙野辺2人はお互い向き合っており、いかにも真剣な雰囲気だった。 田島は瞬時に自分が2人の──髙野辺の邪魔をした事に気が付き、真っ青になりつつ部屋を退出しようとした。 だが、そんな田島を引き止めたのは邪魔をされてしまった髙野辺本人だ。 「ま、待て待て待て……!その慌てよう、何か情報を掴めたんだろう?報告してくれ……!」 先程までもみじに告白めいた事をしようとしていた雰囲気が一転、髙野辺は田島を呼び止める。 もみじ本人もまだドギマギしているような様子だったが、田島の方に顔を向けて真剣な表情だ。 肩越しに振り返っていた田島は、髙野辺に呼び止められた事で完全に振り向き、先程報告しようとしていた事を髙野辺ともみじ、2人に伝える事にした。 ◇ 「──まさか、徳居社員が原因だとは……」 田島からの報告を受けた髙野辺は、額に手を添えつつため息と共に零した。 その声は、酷く呆れた感情に濡れている。 田島は報告を終えると、足早に部屋から退出した。 そのため、今室内には再びもみじと髙野辺の2人きりだ。 リビングにあるソファに2人腰掛け、髙野辺が呆れた声で低く呟いたのだ。 そんな髙野辺に、もみじは困ったように眉を下げつつ答えた。 「──徳居社員って、先日中途採用された営業の方、ですよね?」 もみじの質問に、髙野辺は顔を上げてもみじに視線を向けると頷いた。 「ええ、そうです。……今回の営業会議にも参加したい、と徳居社員から言われた事があるのですが、営業会議は
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-09
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317話

もみじの必死な声に、頭を下げたまま髙野辺は悔しそうに唇を噛み締めた。 (俺は、本当に自分自身が情けない……。大切な人に迷惑をかけて……。浮かれて、判断ミスをした俺が悪い。もっとしっかり徳居社員を見極めるべきだった……) 頭を下げたまま、もみじの言葉に悔しそうに俯いている髙野辺。 苦しそうにしている髙野辺に、もみじはそっと自分の手を伸ばして触れた。 殆ど、無意識だ。 気にしないで欲しい。 いつものように自信満々な髙野辺に戻って欲しい。 そう思ったもみじは、自然と髙野辺の腕に触れていた。 「髙野辺さん、顔を上げてください。私が大変な時、髙野辺さんに沢山助けていただきました。だから今度は、私が髙野辺さんを助けたい、です……。頼ってください、と言うのは烏滸がましいですが……私が協力出来る事でしたら、いくらでもお手伝いしますので……!一緒に解決しましょう?」 「──もみじさん」 もみじの言葉に、髙野辺は顔を上げる。 もみじは心からそう思ってくれているのだろう。 髙野辺を思いやる心が、表情から、瞳からしっかりと感じられる。 もみじの言葉に、ようやく髙野辺は顔を上げて柔らかく微笑んだ。 「ありがとうございます、もみじさん。……お言葉に甘えさせてください」 「──っ!ええ、ええ!もちろんです!一緒に解決策を考えましょう!」 髙野辺が笑ってくれた事で、もみじも自然と笑顔になる。 今まで沢山助けてもらった分、髙野辺にお返しが出来る。 その事に、もみじはキラキラと表情を輝かせた。 髙野辺は少し考える素振りを見せた後、もみじの両手をふ、と取り真剣な表情でもみじに向かってある提案をした──。 ◇ ふんふん、と機嫌良さげな女の鼻歌が聞こえて来る。 女──胡桃は、NEW ISLANDのデザイン室で自分の艶やかに磨かれた爪を上機嫌で見ていた。 「あっ、この色が似合いそう♡」 ふっくらと膨らんできた、お腹。 お腹が苦しくならない体勢で、胡桃はずらっと並べられているネイルに視線を落とし、今日の自分の気分に合うようなネイルを選ぶ。 「これにしようっと♡」 ネイルをつんつんと指先でつつきながら胡桃はスマホを取り出す。 誠司の名前を呼び出し、電話をかけた。 明日は、実家で食事をする予定だ。 胡桃の両親との食事。 その場で、例の仕事について話を
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-09
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318話

ふーふー、と荒くなった息を必死で整える。 胡桃は邪魔な前髪を乱暴にかきあげると、ぎろりと陰湿に光る瞳をデザイン室の扉に向けた。 「もみじより、まずはあの薄汚い女よ……!あの女をどうにかしないと……っ!」 ギリっと爪を噛む。 自分の腹には、誠司の子供がいる。 胡桃の妊娠を、両親はたいそう喜んでくれた。 その両親を怒らせたら、こんな会社簡単に潰されると言う事を、誠司にもしっかりと分からせないといけない。 「私がいながら、あの女を抱く誠司にも分からせてやらないとね……!」 胡桃は低く呟くと、デザイン室から出て行った。 胡桃が向かう先は、社長室だ。 廊下を歩いていると、終業の時間になった。 定時きっかりに退勤する社員と、廊下ですれ違う。 廊下を歩いている胡桃に気がついた社員達は、気まずそうに胡桃から視線を逸らし、口ばかりの挨拶をしてそそくさと通り過ぎる。 (──どいつもこいつもっ!) 誠司の本当の妻は、胡桃ではなかった。 昔、胡桃は我が物顔でこの会社を歩いていたが、胡桃こそが不倫相手だと、拡散された記事でほぼ全ての社員に知れ渡ってしまったのだ。 それからと言うものの、社員達から胡桃に向けられる視線は冷たく、嫌悪感に満ちている。 (私が誠司の妻だと思っている間は、あんなにへこへこしていた癖に……っ!あんな失礼な社員達なんて路頭に迷えばいいのにっ!) まさに怒り心頭、という様子で胡桃は廊下を歩いて行く。 流石に妊婦である胡桃に、侮辱的な言葉を直接かけてくる社員はいない。 だが、胡桃の姿を見ると皆、さっと視線を逸らすのだ。 それがイライラするし、腹が立つ。 そんな状態で社長室に辿り着いた胡桃がドアを開けようとしたが、やはり社長室は施錠されており、外から開ける事が出来なかった。 ガチャン、と施錠されているのが分かる音が鳴る。 胡桃は息を吸い込み、ドアに向かって拳をぶつけた。 ゴンゴン、と何度も拳で扉を打ち付け、大声で中にいる誠司に叫ぶ。 「誠司に、中野秘書!鍵をかけて何をしているの!?電話も繋がらないし、心配して迎えにきたわ!誠司!明日は私の両親に会うから早めに帰ろうって言ってたでしょう!?」 ゴンゴン、と扉を強く叩き続ける。 一旦手を止め、耳を済ませてみるが部屋の中では小さな物音が聞こえるくらいで、すぐに扉が開く気配がな
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-11
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319話

まさか扉が胡桃の方から開けられるとは思わなかったのだろう。 扉を開けた胡桃の目の前に、唖然と目を見開く誠司の姿。 誠司のワイシャツは乱れ、今まさに焦って来たような様子だ。 ボタンが所々外れ、誠司の頬は興奮に未だ染まっている。 首元が乱れているせいか、誠司の太い首筋にはいくつもの赤いキスマークや、引っ掻き傷がくっきりと浮かんでいるのが見えた。 胡桃は苛立ち、怒りの表情のまま誠司を押しやり社長室に入る。 社長室の扉は開け開かれたままで、胡桃の大声に社員達が大勢野次馬にやって来ている。 社長室の前にやって来た社員達から逃げるように、誠司は慌てて扉を閉める。 だが恐らく、誠司の姿を見た社員達には中で何が行われていたか。 それを知られてしまっただろう。 社長としての威厳。 それを再び胡桃に台無しにされた。 誠司は苛立ち顕に振り返った。 「胡桃、一体何のつもりだ!?」 誠司の怒声が部屋に響くが、胡桃は足を止めず部屋の奥へ向かって行く。 胡桃もこの部屋の造りは良く分かっている。 それに、かつての自分もこの場所で誠司と度々情事に耽っていたのだ。 体を繋げるから、死角になる壁の向こう側にあるソファー。 胡桃が真っ直ぐそちらの方向に歩いて行くのを見て、誠司は背後から駆け寄った。 「待て、胡桃!」 誠司が声を上げて胡桃の肩を掴むのと、胡桃がそのソファーを視界に入れるのは同時だった。 「こ、胡桃……っ」 中野は、今さっきまで愛されていた、と言うのが分かるほど体全身を火照らせ、服装も乱れている。 震える手でもたもたと服を直したのだろう。 だが、情事に耽っていた事を隠す事は出来なかった。 服は誠司以上に乱れ、胸元は何とか自分の手で隠している程度。 そしてソファーの下には、中野の下着が落ちているのが見える。 その光景を見た瞬間、胡桃は狂ったように叫び、泣いた。 「いやあああああ!!!」 胡桃の泣き叫ぶ声に、誠司はぎょっと目を見開き、慌てて胡桃を振り向かせる。 だが、振り向いた胡桃はふっと意識を失い、その場に崩れ落ちそうになった。 転倒し、腹を打ったら大事になる。 誠司は慌てて胡桃を抱きとめた。 胡桃が目の前で意識を失った事に、誠司も中野も驚いている。 だが、胡桃は中野にしか見えない角度ですうっ、と目を開け、中野を射殺さんばか
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-11
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320話

胡桃が意識を失い、誠司は大慌てで病院へ向かった。 その間、胡桃の両親に連絡をしている。 誠司が病院に到着すると、既にそこには胡桃の両親が着いていて──。 「誠司くん!胡桃は……!胡桃は大丈夫なの!?」 「胡桃に何があった!?」 胡桃の両親、嶋久志 桔梗と嶋久志 忠は大慌てで駆け寄ってくる。 誠司の腕の中で、真っ青な顔で目を閉じている。 そんな胡桃を心配し、覗き込んでいる両親を見て誠司は後ろめたさを感じた。 まさか馬鹿正直に「秘書と抱き合っている所に胡桃が乗り込んできて、胡桃が怒りのあまり失神した」などとは言えない。 どう言い訳をしようか、と狼狽え目を彷徨わせる誠司に、忠は強い口調で問い質す。 「おい、誠司くん!胡桃に何があったと聞いているだろう!?」 「はっ、はい!それが……っ、その……」 どうやって言い繕うか。 そう考えている誠司の腕の中で、胡桃が小さく呻き声を発する。 「う、うぅ……ん」 「胡桃!」 「胡桃、大丈夫!?」 薄っすらと目を開いた胡桃に、両親はガバリと顔を寄せる。 両親の顔を見た瞬間、胡桃はあっという間に涙を滲ませた。 「お、お母さん……お父さん……っ」 「ああ可哀想に胡桃……、何かとても辛い事があったのね……?」 「どうした?腹の子は大丈夫か?辛くないか?」 初孫と言う事もあり、胡桃の両親は妊娠を大層喜び、生まれて来るのを楽しみにしている。 それなのに浮気をして、胡桃を苦しめていると両親に告げ口をされたら。 それでなくとも、もし、万が一腹の子に何があったら。 胡桃の両親から誠司は相当恨まれるだろう。 恨まれ、誠司が経営している会社を潰されるかもしれない──。 それを考えた誠司は、ぞっとした。 (不味い……。胡桃に俺が中野と寝ている、と両親にバラされたら……!) 誠司は胡桃に声をかける両親を、そして両親に言葉を返そうとした胡桃に寄り添い声をかけた。 「胡桃、具合が悪いのに気付かなくて悪かった。大丈夫か?気分は?」 胡桃を心配する誠司は、傍から見れば「妻思いの良い旦那」に見えるだろう。 実際、病院に来ている他の患者達からは暖かい目で見られている。 (今ここで騒ぎ立てるのは得策じゃないわね……。誠司も、私の両親の事を気にしてる……。誠司の意識を中野から逸らさなきゃ……) 胡桃はそう考
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-12
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