髙野辺には今、最優先で行かなければならない場所がある。 そのため、髙野辺は急かされるような足取りで社長室の扉を開けた。 「──きゃあっ」 「──とっ、すまない、大丈夫か?」 髙野辺が扉を開け、廊下に出ようとした瞬間。 ちょうど扉をノックしようとしていた人物と鉢合わせた。 前方につんのめってしまった女性社員を受け止めるようにした髙野辺は、ふとその女性社員に見覚えがあると感じた。 それも、そのはず。 その女性社員は、中途採用した徳居 朱音だったのだ。 徳居は頬を赤らめ、髙野辺に身を寄せる。 「すみません、ひじ──、社長。受け止めて下さってありがとうございます……」 「いや、礼には及ばない。だが、気をつけてくれ」 「は、はいすみません……」 徳居は可愛らしく頬を染め、ちらりと髙野辺を上目で確認する。 「1番自分が可愛く見える角度」で髙野辺を見た徳居だったが、髙野辺の態度は一社員に対するものから変わらず、冷たい。 「用が無いのならいいか?……急いでいるんだ」 ふい、と顔を背けてしまった髙野辺に、徳居は慌てて追いすがるように声を発した。 「あっ、待ってください、社長……!」 「──何か?」 髙野辺の声に、苛立ちが混じる。 急いでいるというのに声をかけるのならば、早急に確認してもらいたい仕事や案件があるのだろうか。 そう思った髙野辺だったが、足を止めた髙野辺に徳居は場違いな声をかけた。 「あの、お昼を一緒にいかがかな、と思い……」 頬を染め、もじもじとしながら徳居に声をかけられる。 わざわざ自分の足を止めてまで言う事はそれか、と髙野辺は苛立つ。 徳居の方を一切見ないまま、髙野辺は歩き出した。 「──結構だ。忙しい」 「──あっ、社長っ」 足を動かし、廊下を歩いて行く髙野辺の背に、呼び止めるような徳居の声が再びかかる。 だが、髙野辺は今度は足を止める事なく真っ直ぐ廊下を進んだ。 廊下を歩いている髙野辺のスマホが、着信音を鳴らす。 胸ポケットからスマホを取り出した髙野辺は、画面に表示されている名前を見て先程までの苛立ちを一瞬で消し、明るい表情になる。 そして、すぐに電話に出た。 「──もみじさん?どうしましたか?」 柔らかく、優しい声音。 先程の人物と同一人物なのだろうか、と思ってしまうほど、髙野辺の声は柔ら
Terakhir Diperbarui : 2026-07-18 Baca selengkapnya