千暁の顔からは、さっきまでの拗ねたような表情はすっかり消えていた。大人の男たるもの、自分の機嫌くらい自分で取れなければならない。想い人を射止めるまでの道のりはまだまだ長い。冷静さを保ってこそ、最後に意中の彼女を手に入れられるのだ。咲夜は目の前の男を何とも言えない表情で見つめた。「私、出て行くなんて一言でも言った?あなた、まさか本当に頭を打っておかしくなったんじゃないでしょうね?」今の彼女は本気で疑っていた。――この人、本当に何かに取り憑かれたんじゃないの?前と今とで、あまりにも違いすぎる。千暁は鼻を鳴らした。「本当におかしくなったとしても、君、俺の面倒を一生見るって言っただろ。だったらおかしいかどうかなんて関係ない」「……」絶対に何かがおかしい。目の前で少し抜けたような姿を見せる千暁に、咲夜はどうにも慣れなかった。――神様、どうか前の冷徹な閻魔様みたいな千暁を返してください。彼を見ながら、咲夜は呆れたように言った。「普通にして。そんな感じだと逆に怖いから」今度は千暁の方が言葉を失った。彼は布団を引き寄せて体を覆い、そのままゆっくり目を閉じる。「疲れた。寝る」ぶっきらぼうな口調の中に、かすかな疲労が滲んでいた。咲夜が時間を確認すると、すでに午前二時を回っていた。今夜は色々ありすぎた。彼女自身もかなり疲れている。幸い、千暁が入院しているのは個室だった。部屋にはソファがあり、その上には程よい厚みの毛布まで置かれている。ソファに横になったものの、あれこれ考えてしまい、なかなか眠れなかった。結局、咲夜はスマホを取り出し、友人へメッセージを送る。以前から集めていた晴南の黒歴史や不祥事の資料を整理し、一気に公開するよう頼んだのだ。晴南は、人のスキャンダルを暴くのが好きなのね。どうやら風一からの教訓がまだ足りなかったらしい。だからこそ、こんなにも暇を持て余して自分に付きまとっているのだ。そんなに暇なら、少しは忙しくなってもらおう。少なくとも、自分の前をうろつかなくなるなら、それで十分だった。すべて終えると、咲夜はスマホを置き、目を閉じる。ほどなくして、深い眠りへと落ちていった。咲夜の寝息が穏やかになったのを確認してから、千暁はゆっくりと目を開けた。布団をめくり
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