KMSホールディングスという名が、目の奥に残っていた。 検索結果に並ぶのは、医療施設への投資、経営支援、再生事業といった整った言葉ばかりだった。 けれど、律は黙った。 その黙り方の方が、社名より重かった。 「……知ってたんですね」 律は答える前に、肘掛けに置いた手の力を緩めた。 「知らなかった、とは言えない」 「知ってる、そういうことですよね」 「そう思われても、仕方ない」 仕方がない。 その響きに、気持ちが冷えた。 私は画面を閉じなかった。閉じれば、判断まで律へ預ける気がした。 「どういう会社ですか」 「医療投資会社だ。表向きは」 「表向きは。……嫌な言い方ですね」 律の視線が、私の手元へ落ちた。 いつの間にか、タッチパッドの縁を爪で押していた。 「朝霧さん」 「今、その呼び方をされると、逃げ道みたいに聞こえる」 口にしてから、自分でも少し刺々しいと思った。 けれど、引っ込める気にはなれなかった。 律は怒らず、少し目を伏せた。 「……逃げたかったのかもしれない」 「否定してくれたら、もう少し分かりやすく怒れたのに」 「否定したら、君はもっと怒る」 妙に正直な返事だった。 私は笑えなかった。 窓の外では、庭木の枝がゆっくり揺れていた。 「KMSが何なのか、教えて」 「今すぐ全部は言えない」 また、今は言えないと言われた。 保留された言葉の先で、私は三年前に何も聞かれないまま捨てられた。 「じゃあ、どこまでなら言えますか」 思ったより静かな声が出た。 律は私から視線を逸らさず、息を吐いた。 「KMSは、榊グループの敵対先ではない。ただ、九条家の周辺に近い会社だ」 「九条家」 知らない家名なのに、背中が冷えた。 「古い家だ。医療と教育、それに投資にも、今まだ手が伸びている」 「如月グループのお金が、そこへ流れているんですか」 「その可能性がある。今言えるのは、そこまでだ」
続きを読む