葛城静司。 九条。 KMS。 知らない場所で、名前同士がつながっていく。 書斎には、紙と古い木の匂いが混ざっていた。 「朝霧様」 高瀬さんが、声を少し落とした。 高瀬さんは、葛城が持つ資料の種類を事前に開示させ、第三者同席と双方同意の録音が可能な場所で面会すると整理した。後から話を作られないための手順だった。 高瀬さんが入力を始める。 キーボードの音が、書斎に響いた。 その間、律は何も言わなかった。 必要な沈黙もあると、最近少し分かってきた。 「榊さん」 「……どうした」 「九条家のこと、知っていますよね」 高瀬さんの手が止まり、相良さんが盆を持ち直した。 律は、私から目を逸らさなかった。 「知っている」 「今、話せないことですか」 「話せる範囲と、まだ確かめるべき範囲がある」 「便利な言い方ですね。言いたくないことを全部そこへ入れられる」 少し意地の悪い言い方になった。 それでも、引っ込めるつもりはなかった。 律は、わずかに顎を引いた。 「……そうだな」 「否定しないんですか。そこは一応、少しは抵抗して」 「今の言い方は、確かに便利だった」 言い訳をされると思っていたのに、律は嫌味をそのまま受け取った。 「九条家は、古い家だ。金融、医療、不動産、教育。表に出る名前と出ない名前がある。私は榊の当主として、距離を取ってきた」 「距離を取ってきた相手が、如月家の借金と私の過去に関わってるかもしれない」 「関わっている可能性はある」 「それでも、私に全部話さない」 律の手が、肘掛けの上で止まった。 「全部を今ここで出せば、手順を壊す」 「知らないまま待たされるのも、嫌です」 思ったよりはっきりした声が出た。 律はしばらく黙った。 遠くの廊下から、食器の触れ合う音が聞こえた。 律が迷っているのが見えた。 用意した答えではなく、今ここで言葉を選んでいる。 その迷いを待ちたいと思ってしまった。信じたわけではない。ただ、用意した正解ではなく、私に向けた不格好な答えを聞きたかった。 私は腕を組まず、視線だけを返した。急かさない代わりに、逃がすつもりもなかった。 答えが遅いことより、答えを作られる方が嫌だった。私は時計を見ずに待った。
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