「うん。私に任せて」真帆は落ち着いた声で答えた。「和幸、私を信じて。十分だけ時間をちょうだい」「十分……」和幸は小さく呟いた。「十分か……分かった。十分だけだ。真帆……頼む」真帆は静かに頷いた。和幸が部屋を出て行くのを見届けると、真帆は大和をそっと起こした。「大丈夫?」大和は口元の血を手の甲で拭い、真帆に支えられながらソファへ腰を下ろした。「説得しても無駄だ。あの契約は……俺は受け入れない」その口調には、若さゆえの頑なさと意地が滲んでいた。真帆も隣へ腰を下ろした。「私はあなたを説得したいわけじゃないの。ただ、今の状況で何が得で何が損なのか、冷静に考えてほしいだけ。契約書は私も読んだわ。ニールグループ名義で締結されていて、違約金は莫大な額。もし契約違反になれば、長谷部家は再起できないほどの借金を抱えることになるかもしれない」大和は無表情のまま答えた。「それが?俺に何の関係がある?」「どうして関係ないの?」真帆は静かに問い返した。「認めたくなくても、あなたは長谷部社長の息子よ。お父様はあなたを認知している。お母様が亡くなった時、あなたはまだ十六歳で、お父様が唯一の保護者だった。戸籍も長谷部家にあるでしょう?もし長谷部家が倒れれば、借金は家族全員に及ぶ。銀行への返済が滞れば影響はもっと大きくなる。一時の感情で自分の人生まで壊さないで」母の話を持ち出され、大和は静かに拳を握り締めた。「俺のことを知ったような口を利くな」大和は冷たく笑った。「前にも言ったはずだ。あんたは救世主じゃない。余計な世話は焼くな。俺に降りかかる借金くらい、自分で何とかできる」その頑なな性格は、まさに長谷部家の血を引いている証だった。そんな大和の態度に、真帆は困ったように笑った。「ええ、そのとおり。あなたなら返せるでしょう。若くして名を成した『冬橋大和』なんだから。絵を数点売れば済む話かもしれないわね。でも忘れないで。ニールグループが倒産したら、本当にあなただけ無傷でいられると思う?あなたが築いてきた名声はどうなるの?一度契約を反故にした画家を、今までと同じように評価してもらえると思う?」そう言って真帆は立ち上がった。「よく考えて」「待って」立ち去ろうとする真帆を、大和は思わず呼び止めた。目には戸惑いが浮かん
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