黎沈烈を押しのけて、黎家の次期当主になる。その言葉が意味するものを、沈淵は理解していた。これは、ただの後継者争いではない。話し合いで決着することも、どちらかが身を引いて終わることもない。一度始めれば、どちらかが完全に潰れるまで続く。血で血を洗う抗争だ。勝てば。天覇龍門の頂点に立てば、瑛心を守れる。だが、負ければ何も残らない。自分の命だけで済むなら、まだいい。沈淵が敗れれば。彼に従った部下も、育ててくれた養父母も、すべて報復の対象になる。そして、瑛心も例外ではない。むしろ、沈淵が兄へ刃向かった理由として、最も残酷な形で見せしめにされる可能性が高い。(負けるわけにはいかない)それはもう意地でも誇りでもなかった。守ると決めた瞬間に背負った責任。絶対に果たさなければならない義務だった。沈淵は、ゆっくりと目を伏せる。瑛心が言った。あなたの兄は、そういう人間だと。その言葉によって、胸の奥に残っていたわずかな期待が崩れていく。(兄貴は、そういう人間……か)今さら知ったわけではない。本当はずっと前から分かっていた。見たくなかっただけだ。家族というものに、何も期待していなかったわけではない。離れて育てられても。冷遇されても。利用されても。どこかでは信じていた。血が繋がっている以上、最後の一線までは越えないと。(俺だって、一度は……)分家を手に入れる前のこと。沈淵は両親へ正面から話を持ち込んだ。蘇家の娘との婚姻を望んでいる、と。瑛心の名前は出さなかった。奪うのではなく、正当な権利を持って正式な手続きを踏み、家同士に認めさせる形で彼女を迎えようとした。話せば分かってもらえる。余地があると思っていた。その判断が甘かった。沈淵は蘇家を見誤っていた。瑛心ほどの価値を持つ娘を冷遇する、愚かな家だと考えていた。だから。その家の娘を自分が求めても、たいした問題にはならないと思っていた。だが愚かなのは、現在の当主個人だ。蘇家そのものではない。長い年月をかけて人脈を築き、資産を積み、影響力を広げてきた名家。当主がどれほど愚かでも、一族の持つ基盤までは消えない。その蘇家の娘を娶る。それは、ただの結婚ではなかった。力と力の結びつき。新たな後ろ盾。兄に対抗できるほどの影響力を得る可能性。沈淵にその気がな
Last Updated : 2026-04-12 Read more