黎の大きな胸元が、深く、本当に深く、室内の澄み切った空気を肺の奥底まで貪るように吸い込んでいく。 吸い込むたびに、厚い胸元が鋼のように膨張し、首筋から頬を覆っていた漆黒の鱗が、皮膚の下へとスルスルと溶けるようにして消え去っていった。鋭く湾曲していた両手の鉤爪も、人間としての太く硬い指先へと回帰していく。 黎の呼吸から、あの痛々しい擦れるような喘鳴が、嘘のように完全に消え失せていた。 岩盤の奥で鳴るような、重く、力強い鼓動のリズムが、静かな部屋に規則正しく響き始める。 黎は床についた掌に力を込め、ゆっくりと、その百九十センチを超える巨体を垂直に立ち上げた。 乱れた銀髪の隙間から覗く黄金色の瞳は、すでに完全な覚醒状態を取り戻し、怒りと、それ以上の強い熱を帯びて、真っ直ぐにこちらを射抜いていた。「……瀬理亜」 地鳴りのように低い声。けれど、そこにはもう、今朝のあの閉ざされた扉の冷たさは微塵も残っていない。 ただ、自分の大切な宝物を二度と手放さないという、狂おしいほどの執着の熱が、その響きの中に満ち満ちていた。 ヴィクトルは、長机の上に置かれていたあの色褪せた写真のフレームを長い指先で握りしめ、顔面を蒼白にしながら這いつくばるようにして床を見つめていた。「……エレノアの、歯車が……。私の、完璧なシステムが……」 眼鏡の奥の薄青い瞳は焦点が定まらず、完璧だった白いスーツの膝元は、床にぶち撒けられた冷却液で無残に濡れそぼっていた。 私は、ウールコートのポケットの中で、祖母のロケットの表面を指の腹でそっとなぞった。 手首の薄紫色の管は、もうドクドクと跳ねてはいない。身体の内側に、自分の体温がしっかりと残っているのがわかった。 命を、削っていない。 一人で背負わなかったから、私は自分の命を削らずに、あの人の呼吸を守ることができた。必要とされるためではなく、隣で一緒に息をするために、この力を選べたのだ。 白亜が回転椅子にドカッと座り直し、凍りつきかけていたコートの袖を、つまらな
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