黎の持つ強大な生命力の熱そのものが、この通路を満たす濃縮された瘴気によって、外側から強制的に奪い取られようとしているのが、密着した肌の表面が急速に熱を失っていく感覚でわかった。 「ノワール、意地を張るのも大概にしなよ。お姉さんを抱えたままじゃ、その減圧状態の空気の重さに耐えきれずに、二人まとめて床に突き崩されるのがオチだよ」 剥がれ落ちたパネルの残骸を硬い靴底で踏み砕きながら、白亜が先頭に立って霧の中へと足を踏み入れた。彼女の白いシルクのドレスの裾は、床を這う黒い泥を吸い込んで重く強張っていたが、アイスブルーの瞳には、同族の無様な変貌に対する焦燥の光が鋭く点灯している。 「白亜ちゃんの言う通りです、黎様。私はもう、自分の足で歩けます。一人で背負わないって、さっき約束したじゃないですか」 見上げる視線に、まっすぐな力を込める。 黎は血走った瞳をどうにか動かし、腕の中の顔を覗き込んできた。 彼の顎の筋肉がギリッと音を立てて硬く引き締まる。数秒の激しい葛藤の後、黎はゆっくりと身体を傾け、私の足の裏を冷たい大理石の床へとそっと下ろした。 一歩、踏み出すと、ドレスのシルクが肌を擦り、胸元に仕舞い込んだおばあ様のロケットの重みが、確かな現実として鎖骨の上を圧迫する。 「……俺から三歩以上離れるな。いや、一ミクロンも離れるな」 黎は立ち上がると、人間としての太く硬い指先を伸ばし、私の右手首をガシッと掴んだ。 熱い。でも、先ほどまでの焼けるような高温ではない。彼自身の内側の炉が、周囲の瘴気によって少しずつ冷やされ、削られようとしているのが、その掌の微かな震えから伝わってくる。 「離れません、黎様」 繋いだ手を力強く握り返し、二人は白亜の背中を追って、地下へと続く金属製の階段へと足を進めた。◇ 鉄の階段を下りるごとに、周囲の空気はさらに一段と重く、粘り気のある臭気を増していった。 カン、カン、という、靴底が鉄板を叩く音が、窓のない狭い階段室に奇妙なくぐもったリズムで反響する。非常灯の赤い明滅が届かない階段の途切れた暗がりは、まるで生き物の食道の中へと滑り込んでいくかのような、異質な圧迫感に満ちていた
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