話し終えた後の律は、少しだけ呼吸が浅く見えた。 黒い仮面は、まだ律の顔を覆っていた。 だからこそ、そこに隠れているものが以前より遠く見えた。近づいたはずなのに、触れてはいけない扉が一つ増えたようだった。 私は、その仮面ではなく、彼の手元を見ていた。 肘掛けの上に置かれた指。 強く握りすぎて、関節が白くなっている。 見ている場所を変えないと、さっきの言葉が、自分の中で大きくなりすぎる。 律も、誰かの噂に閉じ込められている人なのかもしれない。 その考えより、肘掛けを握る律の指から目を離せなかった。 慰めのつもりではなかった。理解したと言いたかったわけでもない。 ただ、そう見えた。 律はしばらく何も言わなかった。 休憩室の外では、誰かが盆を運ぶ小さな音がした。陶器が触れ合う軽い音。扉の前で止まって、また遠ざかる。 相良さんが人払いをしているのだろう。 それが分かるくらいには、この家の空気にも少し慣れてしまっている。 慣れてしまうことが、怖かった。 「朝霧さん」 律が呼んだ。 私は顔を上げる。 黒い仮面の奥の目は、いつもより少しだけ無防備に見えた。けれど、こちらの返事を急かさず、逃げ道をふさがないところは変わらない。 「水、替えます」 律は自分のグラスを見てから、私の方を見た。 「私の分もですか」 「二人分」 「……榊さんも飲んでください」 「なら、私も飲みます」 あっさり返されて、続けるはずだった小言を失った。 私は膝の上で握っていた手を開いた。 指の腹に、爪の跡が残っている。 律は自分のグラスを取り、少しだけ水を飲んだ。 私もようやく手を伸ばした。 喉が潤っても、次の言葉は出しやすくならなかった。 それでも、黙ったままにはしたくなかった。 グラスを戻すと、指に水滴が残った。 グラスを置いた手を、膝へ戻した。 「榊さん」 律は言葉で促さず、ただ視線をこちらへ返した。 「あなたを信じるのが怖いです」 声は震えなかった。 震えないように、短く切ったからだ。 律の視線が、まっすぐ私に向く。 「助けてもらったことは、分かってます。祖母の面会も、如月家から
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